第2話
100年に一度の変化
造船業界を世界の視点で見ますと、元々強かったのはヨーロッパのメーカーです。その技術が日本に移り、世界トップに躍り出たのが高度経済成長の時代。長らく日本がリードしていましたが、2000年代に入りますと、今度はその技術が日本から中国へ渡り、中国、韓国が台頭します。
今、日本、中国、韓国と三つ巴状態にあるのですが、生き残ってきたヨーロッパメーカーが中国企業と手を組んで付加価値の高い特殊なものづくりで復活を遂げたり、日本市場から撤退した日本のメーカーも中国企業とライセンス契約を締結しているので、このあたりが強敵になってくるのではと思っています。
成熟産業ですから新たなプレイヤーが増える可能性は低いですが、およそ100年前に船舶の燃料が石炭から重油に変わったことと同じ動きが、いま起きています。それは、重油からアンモニアや水素、天然ガスといった、CO2を出さないエンジン開発を日本、中国、韓国といったそれぞれの国が競争してる状況です。
こうした新燃料の影響は、私どもの製品には直接の影響はありません。ウインチにしても、クレーンにしても電気を供給してもらえれば動かすことができるからです。 環境面でいえば、電気自動車と同じく、2000年ぐらいから電気式のウインチを開発し、これまで評価を得てきました。コンテナ船やPCC(Pure Car Carrier)などの船種で多く採用されている他、環境に優しいというブランドイメージを表に出したい海外の船会社さんで多く採用されています。

洋上風力発電にチャンス
1話で、船舶に縛られずウインチとクレーンをとことん極めていくのも、一つの道と語りましたが、その視点で未来を見据えると、風力発電にチャンスがあります。2030年以降、日本でも再生可能エネルギー開発が進み、今後海の上に建てる洋上風力が主流になると言われています。海底に建てる着床式と海上に浮かべる浮体式とがありますが、どちらもアンカーで止める必要があるのです。
そのアンカーを海底に打つ時、ハンドリングするウインチ(アンカーハンドリングウインチ)が活用されるのですが、日本でアンカーハンドリングウインチに対応できるのは当社含めて2社のみです。私どもがイニシアティブを取らなければ、海外製を輸入することになりますから、社を上げて取り組むべきものだと思っています。
実際、アンカーを海底に引っかける時は400トン〜600トンぐらいの力が必要になると言われています。その力を出すためのウインチですが、天然ガスや石油の基地でもウインチが使われており、眞鍋はそこでも実績があります。ただ、今回は規模の大きい風車を止めるために、すごく大きなテンションをかけなくてはいけませんので、世界中でそれが成り立つのかどうか検証されているところです。眞鍋のキャラクター、マキコちゃんの製品イメージは15トンくらいですから、600トンに向けた新しいキャラクターづくりも考えています。機関車トーマスで言うところのゴードンみたいな感じですね。

3人で新規事業プロジェクト
その一方で、今後、工場の自動化をさらに進めるために、「こんなサービスがあったら」というものを企画し、新規事業として着手しています。ITを使った事業展開となるので、外部からメンバーを集め、今、私を含め3人で進めています。3人とも離れたところで生活していますので、通常は週1回のweb定期ミーティングをベースにプロジェクトを進めています。
私がIT業界にいた時の同期が、会社を起こしていますが、その会社もコロナ以前から全員がフルリモートで、世界中にメンバーがいます。それを聞いていたのできっと成り立つと思っていました。モノづくりですと製造現場がありますから、リモートというわけにはいきませんが、IT業界は当たり前なんです。私自身もこの新規事業を通して、コミュニケーションアプリのSlackやMiroやNotionを使うなど、スキルのアップデートがされているので、それを眞鍋に還元していきたいですね。
このプロジェクトを進めてから、約2年。ブレない部分は、新規事業を達成したいという想いです。Webベースですから雑談とかも発生しずらいドライな関係なのかもしれませんが、1人は個人事業主で、もう1人はベンチャーや大きな会社のCTO。3人とも同年代です。こうした社外メンバーとの取り組みは、大事なことだと思っています。常に同じところで同じことをやっていたら、考え方も仕事の仕方も凝り固まってしまいます。外から違う血を入れていくことで、独創性を高めていきたい。そう思っています。

海外展開を視野に
実は、過去に海外拠点を検討していて、実現の寸前まで進めた時がありました。それは、私が社長になる前からで先代と進めていた海外工場の計画です。当時、月に一度のペースで中国に通っていました。世界の造船会社の受注残が極端に減少するのではという2014年問題を背景に、厳しくなることが予想されていたので、中国市場をターゲットに新しいことへの挑戦を試みていました。
しかし、チャイナリスク的なことを考え、最終的には計画を断念したのです。結局、それ以降に中国政府が造船関係の会社の統廃合進めていきましたので、もし着手していたら大変な影響を受けていたかもしれません。あの時は、工場建設予定地を更地にする工事が始まるというタイムリミット寸前に中国のホテルで、「本当にやめていいのか」「やめましょう」と先代と膝をつき合わせて話し合ったことを記憶しています。
そういうこともありましたが、日本の人口減少や世界市場の拡大といった長期的な視点で考えると、さらなる成長のためには海外進出も考えるタイミングが来ると思っています。最近の人材不足は本当に深刻で、製造現場だけではなく、設計職も人が不足しているので、設計会社を海外につくるといったことも考えなければならないと思っています。

ルールをつくらない、というルール
独創的な創業者に惹かれて人が集まった眞鍋は、スタートアップの精神がそのまま続いてきたように感じます。革新的な製品やサービスを生み出す独創性は、今の世代に脈々と受け継がれています。一昔前は、優等生タイプというより個性的な人が活躍していましたが、今はいろんなタイプの人がいてこそ、新しい何かを生み出し、新しい文化に繋がると思っています。
私が常に言っているのは、できる限りルールを作らないこと。自由を尊重しようと。その中で大事なことは、自由の裏側には責任があって、そこまでがワンセットであるということ。それさえみんなが理解すれば、とやかく言う必要はないと信じています。
よく、「どんな会社でありたいか」と聞かれますが、色んな切り口で自分たちの誇れるモノづくりを追い求める会社でありたいですね。働いていて楽しくなかったら人生面白くない。そのためにも、人間として成長するということ、それをみんなで対話してます。この先も成長し続ける会社であることを願っています。(語り:眞鍋将之社長)

(第3話:「 溶接ロボット化への挑戦 」に続く)
火花立ち上がる
眞鍋造機株式会社様
取材ご協力
眞鍋将之 社長
眞鍋哲夫 工場長
秦彰吾 様
取材
東海バネ工業 ばね探訪編集部(文/EP 松井 写真/EP 小川 )