第3話
溶接ロボット化への挑戦
製造現場の人手不足は、どの分野でも深刻な状況にある。眞鍋造機のモノづくりに欠かせない溶接を担う職人が少なくなっているなか、2016 年、トヨタ生産方式を取り入れて「生産性革新活動」を実施。溶接の⾃動化に取り組んだ⻄条⼯場では、その⼯程のほとんどを⾼性能なロボットが担っている。社員の力を終結し、最適な人数で、最適なモノづくりができるよう進化した⼯場。第3 話では、⾃動化に取り組んできた眞鍋哲夫⼯場⻑に、その道のりや技術の伝承などについて語っていただいた。

はじまりは機械加⼯から
ここ⻄条⼯場は、製缶・加⼯・組⽴・検査のすべてを⼀貫体制で⾏っており、デッキクレーンと大型船舶用甲板機械(ウインチ)の製造を手がけています。モノづくりにあたる職人は、現在118 人。⼯場見学に来られた方から「人が少ないですね」とよく言われますが、眞鍋では早い段階から自動化を進めてきました。
そのはじまりは、機械加⼯からでした。夜間の自動運転でどれだけ進められるか。まず、17 時までにこれだけのものをセットしておけば、朝までに仕上がっている、という流れをつくり、その流れが軌道に乗ったところで、難題と予想される溶接のロボット化に着手しました。
どのようにして1 日1 台のデッキクレーンを造るか。
すべての⼯程における作業の標準時間を割り出し、それをオーバーするところから自動化に取り組みました。現場の改善によって作業時間を8 時間から7.5 時間に短縮。その作業を分割し、どのセクションに何人の人を配置すればいいのかを設定し、そこに向けて徹底的に改善を図ったのです。
ゴールは、止まらないこと
⼀方で、ロボットに関しても「何をしたいのか」ということをロボット製造メーカーから求められていましたから、自分たちで構想をつくりあげました。苦労したのは「止まらないこと」。当初は、現場から「止まる、止まる」いう声があがっていて、止まると手動に切り替えるという繰り返しでした。ですから、どうしたら止まらないで動かすことができるか。そこに⼀番、労力がかかりましたね。これを解決するのに、半年ほど試⾏錯誤しながら進めていったと記憶しています。そんなことを乗り越えて、企画から実際の導入までは1 年くらい。今では、止まることなく動いています。
トヨタ生産方式を参考にするため、外部のコンサルタントを入れて指導をしてもらいながら進めましたが、現場の従業員が協力して取り組んでくれた結果、すべての⼯程を110 人で回せるようになり、「最適な人数で、最適に物を流す」といった理想の形に近づけることができたのです。⾃動化の意味自動化への取り組みは、もちろん人手不足を解消し生産性を高めるためではありますが、眞鍋社⻑には、ここで働く人たちにしかできない価値を追求する会社でありたいという想いがあります。「人に誇れるモノづくり」をビジョンに掲げていますから、機械にできることは徹底して自動化していこうと考えています。実際、自動化することで社員は楽になりました。それこそ、人にしかできない誇れるモノづくりに没頭できる環境になってきたと思います。まだまだ、自動化できるところはたくさんあります。例えば、デッキクレーンのハウストップという部品があり、その溶接を人の手でやると9 時間かかってしまうので、来期はここにロボットを導入して自動化しようと計画中です。その次は、塗装のラインの自動化に取り組みたいですね。それを手がけたとしても、全体の半分もいきません。しばらくはこの自動化への試みが続きそうです。

8割の内製化
冒頭、⼯場見学に来られた方が、「人が少ない」と驚かれるとお話しましたが、もう⼀つ驚かれるのが、製品のほとんどが内製化されている事実です。購入品を組んでいるところが多い中、眞鍋では可能な限り自分たちで部品をつくることに力を入れています。内製化の利点は、何か問題が起きた時、すぐに部品をつくれますし、問題点を設計にフィードバックできます。

振り返れば、私が入社した時から、何でも自社でつくるというのが当たり前でした。当時は、加⼯機まで社内でつくっていましたね。ターニングや、鉄板を曲げる機械、ベンディング、プレス機など、 設備クレーン100 台くらい搭載していますが、ほとんどが自社製です。
この内製化は、眞鍋の強みでもありますから、次の世代に伝承していかなければなりません。そのためにも、1 人1 人が持っているノウハウを吸い上げて、なるだけ文章で残していこうと、取り組んでいるところです。技術の⻁の巻ですね。まだ、それぞれのパソコンや頭の中に貯めている状態ですが、だんだんベテランがいなくなりますからね。考えています。
鉄は生きている
私は35 年前にこの会社入りましたが、まだ汎用機の時代でした。その1 年後からNC 化が進んだのですが、汎用機で加⼯していますと、どこがどう歪むかがわかるんです。ここは歪むから、こう加⼯しなければいけないということを体験的に学べました。それを知っているので、プログラムからも加⼯できます。NC 化となった今の若い人たちは押したらそのまま削れますから、その歪みを経験できません。鉄は生き物。曲がったり折れたり、割れたりするものなんです。
溶接なんかも入った時はまだ棒の時代。 棒溶接をしながら、溶け込みの流れをよく見ないといけなかった。今はセルフシールドアーク溶接、強い電気でやる。それは溶け込みがなかなか見えない。加⼯にしても、溶接にしても、35 年前に学べてよかった。そうした経験は、今の世代の若手に、なるべく話をして伝えています。
500t ヘビーリフトクレーン
現場の知恵を集結させて誕生したといえば、500tのヘビーリフトクレーン。これまでつくったなかで⼀番大きく、別格です。これをつくった時は、みな、よく考えてやってくれました。やってみて気づいたのは、完成形までつくったら、重量が重く吊り上げられないこと。港で被せないといけないかと(笑)。
その反省から次に着手する250tは、鉄板の素材を780Mpa級の高張力鋼板に変え軽量化を図ることが可能です。ただこれを使用する上では、いくつかの問題があります。
1つ目は船舶の構造物を製造するにあたって、船級協会であるNK(一般社団法人 日本海事協会)に溶接承認試験法案を取得する必要があります。
2つ目は、高張力鋼板を使用する上で、これまで予熱がいらなかった箇所も温度管理や溶接速度の調整が必要となってきます。これらの問題を対処していきます。

現在、平均年齢は35 歳。圧倒的に50 代以降が少ないですね。フィリピンとインドネシアの外国人が38 人で、外国人に頼っている部分もあります。マニュアル化出来ない技術は、⻁の巻を作って残し、人手不足の課題はロボット化で解消。その自動化によってこれまでできなかった付加価値を持たせることも可能になっています。こうした窮地をものごとを改める好機と捉えて、これからも⼯場をどんどん進化させていきたいと思っています。(語り:眞鍋哲夫⼯場⻑)

(第4話:「 社員が語る仕事と誇り 」に続く)
火花立ち上がる
眞鍋造機株式会社様
取材ご協力
眞鍋将之 社長
眞鍋哲夫 工場長
秦彰吾 様
取材
東海バネ工業 ばね探訪編集部(文/EP 松井 写真/EP 小川 )