第3話
【Made in アイチ】愛知製鋼株式会社
「自動車に合う優れたハガネをつくりたい」
という志のもと、愛知製鋼の歴史は始まった。
自動車産業は、部品を組み立てるアセンブリー産業であり、
先端技術が必要とされる商品をつくり込むためには、
使用される膨大な部品、素材メーカーの存在なくしては成り立たない。
トヨタを世界のトップメーカーに押し上げた背景には、
愛知製鋼をはじめとする協力会社との運命共同体的な連携があったからこそ。
「よきクルマは、よきハガネから」という理念に込められた、
深く、熱いことばの意味を、あらためて噛みしめた。
資源循環型企業への挑戦
愛知製鋼が製造するものは、自動車の「走る・曲がる・止まる」に直結する製品で、エンジンに使われるクランクシャフトやコネクティングロッド、トランスミッションに使われるギアやシャフトなどの素材である。人の命を支える部品だけに、高品質、強度、信頼性が絶えず求められる。売上高2,374億円(連結)、鋼材48.3%、鍛造品44.7%、電磁品5.3%が内訳で、生産量は鋼材、鍛造品併せて年間約113万トン。これが2014年度の実績だ。
「鉄鋼メーカー同士を比較すると、製品の種類がある程度限定されてしまう高炉メーカーに比べ、当社が提供するハガネの種類の対応範囲は、圧倒的に広い。少なくとも、自動車で使用されるハガネは、すべてつくることができます」(山中敏幸)
そんな愛知製鋼は、再生可能な鉄スクラップを原料に、鋼材、鍛造品をつくる鉄資源循環型の一貫生産を実現している。その多くの資源は自動車であり、部品加工時に発生する高品質な鉄スクラップをトヨタグループから安定的に入手できる。これが、愛知製鋼の最大の強みだ。
「トヨタグループ以外から回収してくる鉄スクラップにも、溶かしやすくて成分がはっきりしているものがあります。反面、形が不ぞろいで成分がばらつき溶かしにくいものもあるので、それらをうまくブレンドして品質、コスト、生産性の最適化をはかっています」(古寺実)
鉄スクラップを扱うには、調達能力、品質管理能力といった要素に加え、相場的な感覚も必要だ。また、資源の少ない日本にとって、資源を循環させることはとても重要だと、山中上級執行役員は語る。
取締役上級執行役員 山中敏幸様(営業本部 本部長)
海外展開は大きな柱
グローバル化の流れの中で、例外なく、愛知製鋼も海外展開は大きな戦略の柱となっている。海外に進出した日系自動車メーカーは、鋼材そのものは現地調達化が当然となっているが、品質にバラツキがあり、安定しない。その課題への取り組みが急務でもある。
「求められる内容が、<硬さだけ>といった品質的に厳しくない場合であれば、現地の鉄鋼メーカーにつくってもらいますが、トランスミッションのギアなど、難しい品質が要求されるものは、日本でつくっています。中国、インドといったところに、「鍛鋼一貫」の工場をつくろうとすると、1,000億円以上の投資が必要になり、現地では、それだけの投資をしても企業として成り立つ最小経済規模に達しません。アセンブリー産業を支える部品、素材産業が未発達ですから、インドや中国の鉄鋼メーカーを活用して「鍛鋼一貫」を実現し、愛知製鋼にしかつくれない鋼材をASEAN諸国の鍛造拠点へ安定的に供給できるよう考えています。その一つがインドのウッシャー・マーティン社(UML社)との技術提携で、現在、特殊鋼の製造技術を徹底的に指導しています」(山中敏幸)
海外生産を進めているメーカーから、「海外でも使える鋼材にしてほしい」と要求があるというが、「どこでつくっても同じ、ではない」「愛知製鋼じゃなければつくれない」という、ものづくりへの強い思いが、伝わってくる。
従来の壁を越えて
トヨタと共に歩んできた愛知製鋼だが、1つの部品でも基本的に1社から購入せず、バックアップの意味も含めて2社に発注するのがトヨタスタイル。鍛造品に関しては、トヨタ自身も内製化している最重要部品であり、次世代モデルのクランクシャフトは、愛知製鋼とトヨタ内製との競争が待っている。こうしたグループ内の切磋琢磨が根幹技術の蓄積に貢献し、その力は、今、外へと向けられている。
「これまで、トヨタグループの我々にとって、他の自動車メーカーとの取引は限定的なものでしたが、今は、海外で商売がはじまる時代なんです。海外に出ると、グループの枠を越えて、同じ日系という仲間意識で信頼関係が深まります。実際、アメリカ、中国、タイで、トヨタ以外のメーカーとの鍛造品取引がスタートしました。今度は、日本国内の門戸をたたこうと思っています」(山中敏幸)
これからの未来は、FCV(燃料電池自動車)、EV(電気自動車)ハイブリッド、ガソリン、ディーゼルと、さまざまなタイプのクルマが共存する時代である。
自動車における鍛造品は減少方向となるかもしれないが、クルマの基本機能を支える重要部品であることに変わりはなく、また、ステンレス鋼は、既存の分野以外でも大きく成長している。
これが、愛知製鋼が目指す新たな道なのである。
Made in アイチ
最後に、グローバル化の波に乗ろうと試行錯誤している中小企業について見解を尋ねると、こんなメッセージが返ってきた。
「信頼関係を築いた仲間と一緒に、メイド イン ジャパンを目指すことが大事ではないでしょうか。我々のような素材メーカーと、部品メーカーがお客様のニーズに応えられるよう、メイドインジャパンを守り、強くしていく、そんな取り組みができたらと思います。1社で世界へ出てくのではなく、数社とタッグを組んで、メイドインジャパンを意識して売り込む。そのためには、皆が腹を割って話し合えるかどうかです。我々はそんな風に考えています」(安永直弘)
何のために、ものづくりをしているのか・・・
多くの日本企業は、お客様のためにつくっている。儲けるためとか、自分たちの技術を自慢したいわけではない。お客様の喜ぶ顔を思い浮かべながらつくっている。
その気持ちこそがメイドインジャパンである。
安さだけを求められたとしても、自分たちの価値を伝える努力をしなければならない。自分たちのものづくり精神を伝え、お客様とも腹を割って、お付き合いする。ほんとうのことを伝え、信頼関係を築き、素材、加工、製品とつなげれば、誰にも真似できない「メイドインジャパン」が生まれる。意思の疎通、信頼関係が大事であると。
さらに、経営トップの考え方と、現場の考え方が一本に通っていなければ、そのメイドインジャパンは実現しないという。経営サイドと、現場で考えるプロセス改善が一体にならないと、ものづくりはよくならない。愛知製鋼だからこそ、言えることだ。
過日、トランスミッションを世界中に輸出しているお客様との技術交流会の席上にて、ある役員の方から、こんな嬉しいお話をいただいた。
「製品をおさめているドイツの有名なメーカーから高い評価をもらっている。彼らは、そのトランスミッションの部品を『メイド イン アイチ』と呼んでくれている」
この一言が、愛知製鋼のものづくりの総てを物語っている。
~よきクルマは、よきハガネから~
愛知製鋼株式会社 知多工場[特殊鋼条鋼]
所在地 〒476-8666 愛知県東海市荒尾町ワノ割1番地
取材ご協力
取締役上級執行役員 安永直弘様(生技本部 本部長)
取締役上級執行役員 山中敏幸様(営業本部 本部長)
執行役員 野村一衛様(先端・機能商品開発部長 工学博士)
参与 古寺 実様(知多工場工場長)