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東海バネ工業株式会社

よきクルマは、よきハガネから | 愛知製鋼株式会社 様

第2話

【素材に価値を吹きこむ】愛知製鋼株式会社様

「ことづくり」・・・よく、耳にする言葉ではないだろうか。
形ある「もの」に対して、「こと」は感動や喜びといった価値を意味する。
お客様がやりたいこと、求めているニーズを探るのが「こと」であり、
多くの製造者視点からすると、逆方向ともいえる。
愛知製鋼が、他社に真似できない製品を提供できるのは、
使う人の視点を素材に作り込んだからこそ。
「もの」がハガネならば、つくり込みは「こと」。
愛知製鋼の素材に込めた「ことづくり」に触れてみたい。

こだわりは、加工しやすさ

特殊鋼といえば、強さをイメージするが、愛知製鋼の生みの親である豊田喜一郎が特にこだわったのは、「使いやすさ、加工しやすさ」であった。

「自動車に合うハガネとは、単に良質なだけではダメで、『マシナビリティ』(加工しやすさ)と『デュアラビリティ』(耐久性)の両面を兼ね備えたものが必要でした。決して、強いだけではなく、加工しやすくて、耐久性のあるもの。曲げやすい、傷がない、均一、そして、低コストであることが重要だと考えています」(野村一衛)

執行役員 野村一衛様(先端・機能商品開発部長 工学博士)

日本の鉄鋼は欧米の技術を導入し、欧米に追いつけ、という時代が何十年と続いた。80年代になると、1話で触れたように、愛知製鋼が先駆けて導入した設備で業界を牽引し、日本の特殊鋼は、世界トップクラスに躍り出た。特殊鋼なら日本、という信頼を勝ち取ったのである。愛知製鋼の生み出した「複合製鋼プロセス」には、トヨタをはじめ、ユーザーと一緒に開発してきた経験から、ユーザーが求めている「こと」がつまっているのだ。

顧客とともに

「愛知製鋼の『複合製鋼プロセス』は、ボールベアリングの寿命が従来に比べて100倍にあがったんです。そして、取鍋精錬炉(LF)と、真空脱ガス装置(RH)の二つの設備は、いかに、ハガネをきれいに、成分を均一にするかを実現したもので、当時、この二つの設備を複合させたプロセスは世界に類がありませんでした」(古寺実)

参与 古寺 実様(知多工場工場長)

喜一郎が常々言っていた、よきハガネの定義は5つ。加工性が良い、材質が均一、歪が少ない、寸法が正確、低コストと、すべてが加工を加えることを前提で考えられている。

「加工しやすさを実現するには、お客様と一緒に開発していくことが大事です。例えば、叩いて形をつくるのか、あるいは旋盤とかボール盤で、削ったり穴をあけたりと、お客様によって使い方は違います。ですから、それぞれのお客様の懐に入り込み、どういうハガネをつくれば、加工しやすくなるのかを探ってきました。それがわかってきますと、ハガネの知識が積みあがってくる。ハガネの成分をこう変えれば、こうなる・・・と」(野村一衛)

例えば、クランクシャフトは、鍛造品と鋳物があり、鋳物は削りやすいがたわみやすい、鍛造でつくると、強いけど削りにくい。トヨタの例でいうと、鋳物をつくるラインと鍛造をつくるラインが別ラインになっており、鍛造品を増やすためには、ラインがいる。そこで鋳物と同じようにつくれるハガネの開発に成功した。こうして、自動車に限らず、建設機械のパワーシャベル用、ブルドーザー用など、ユーザーとともにニーズにあわせた研究開発を行ってきた。これが、愛知製鋼の「ことづくり」のベースになっているのだろう。

ハガネは生きもの

開発のなかで特に難しいのは、お客様のニーズを落とし込んだハガネの設計が出来上がったあと、量産する段階だ。ニーズを反映すればするほど、つくりにくくなるという。

最終工程でも、どうやって品質を安定させるかに、骨をおる。温度や湿度の影響もあり、夏場に開発したときは問題なかったが、冬場には割れた(破断した)、なんていうことも・・・

「ハガネって面白いもので、同じ成分でつくっても、他のメーカーがつくると、折れたり、寿命が短かったりするんです。つまり、つくり込まなくてはいけない難しさがある。寿命が長く、高強度となると、表面傷がでたり、欠陥がでたりするので、当然、つくりにくい。それをクリアする条件を求めると、時間がかかり、生産性が落ちてしまう。生産に入ると、そうした問題がでてきますから、どこの条件をどういじればどうなるという、組み合わせの積み重ねです」(安永直弘)

条件の事例が増えれば、愛知製鋼にしかできない処方箋が蓄積される。
単なる「もの」と接するのではなく、生き物として接するからこそ、
素材が、「もの」から「こと(価値)」にかわるのである。

見逃せないのは、ものづくり、ことづくりが、価値を生み出す、ひとをつくっているということ。この自然作用が、世界で戦う愛知製鋼の競争力の源泉となっている。

第三話に続く・・・

~よきクルマは、よきハガネから~

愛知製鋼株式会社 知多工場[特殊鋼条鋼]

https://www.aichi-steel.co.jp

所在地 〒476-8666 愛知県東海市荒尾町ワノ割1番地

取材ご協力

取締役上級執行役員 安永直弘様(生技本部 本部長)
取締役上級執行役員 山中敏幸様(営業本部 本部長)
執行役員   野村一衛様(先端・機能商品開発部長 工学博士)
参与     古寺 実様(知多工場工場長)