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東海バネ工業株式会社

めっき、その先を追いかけて… | 株式会社日本ラスパート 様

第3話

【世界の舞台で闘う「メイドインジャパン」の強み】株式会社日本ラスパート様

めっきの将来性に危惧を持ち続けていた津村社長は
産業排水そのものを排出しない無排水処理を推し進める。
表面処理業界で重要なファクターである
めっきの代替処理を生み出すことをスローガンに・・・・

無排水、電気分解不要のものづくり

日本ラスパートの営業形態は二つ。お預かりした商品の表面処理加工をしてお届けするものと、蓄積した技術のノウハウを提供するライセンス契約。この契約先に塗装設備や塗料を提供するビジネスモデルが、現在の大きな柱になっている。国内のライセンス供与5カ所、海外10カ国で23カ所、圧倒的に海外からの引き合いが多い。

第2話で記述した「ラスパート」がヒットし、なんとか、3億円の借金を返済することができた津村社長は、新たな課題に直面する。それは、水素脆性の問題だった。金属が水素を吸収してもろくなる現象のことをいうのだが、例えば、駆体に締結されているボルトが水素脆性の影響で破損すれば、大きな事故につながる危険性も十分に考えられる。

「表面処理と締結部品のトラブルを無くしたい・・・」

「脱めっき」への思いと重なり開発に明け暮れた1996年、ついに「ディスゴ」を生みだした。めっきをせずに金属の上に直接、下地処理をして塗装を施すディスゴは、亜鉛とアルミを主な顔料とし、亜鉛自身が腐食することで金属素地を守る。12〜15μm(マイクロメートル)で、高耐食であることから、広い顧客層を掴むきっかけとなった。

電気めっきしたものとディスゴ処理したものを比較すると、前者には多くの水素が含まれているが、後者はもともと鋼材の中に含まれている水素量と変化は無い。電気めっきの場合、前処理段階での塩酸の中で入り込む水素と、電気分解の際、鋼材の中に入る水素の2カ所で水素脆性が起きる。電気亜鉛めっきは「ベーキング処理をすることで安心」と言われているが、津村社長からいえば、そんなことはないという。塩酸も使わない、電気分解もしない、すべての因子を取り去った安全の塗膜だけを使用して防錆をしよう、というのがディスゴ処理だ。

ディスゴの進化形

この技術で向かった先は海外。展示会にも積極的に出展すると、ディスゴに飛びついてきたのは中国、台湾。自社の技術を認めてもらった津村社長は、中国に拠点も構え、ライセンス契約を増やしていった。それから10年、ディスゴ処理は厚膜だったため、用途が限られてしまう。「もっと薄くつくることはできないか・・」と挑んだ結果が「ラフレ」。亜鉛とアルミと錫を粉砕して分散する塗料、より薄く、より強く、を追求した製品であり、僅か5μm(マイクロメートル)でこれまでと同じ防錆力を出すことに成功。これまで蓄積してきた技術の集大成が完成した。ボルトナットのような取り付け部分により適してる。

今だからわかる、先人が切り開いた道

「海外のお客様は、日本より反応がいいですね。何故かといますと、先輩たちがメイドインジャパンという信用をつくってくれたからなんです。戦後、蓄積されてきた信用の大きさを感じますね。そのおかげで、自分たちは海外のお客様に育ててもらいました。日本ラスパートだからではなく、日本の技術だから、買ってくれたと思っています。この立場になると、どれだけ先輩方が苦労されたか、よくわかりますね。
逆に、日本のお客さまはメイドインアメリカへの評価が高い。だから、私は一人で海外を歩き回ったのです。『お前に、一度だけチャンスをやる』って、アメリカの会社に救ってもらい、台湾の人に認められ広がりました。それで、中国に拠点を構え、中国から世界に自分たちの会社を発信しているんです。日本から発信するのではなく・・」

現在、深センと大連に支店を持ち、メイドインジャパンの製品を中国で販売している。ラフレの順調な広がりで、技術的な対応ができなくなった中国から、日本へとバトンタッチ。顧客は、日本で技術研修を受けている。アルファロメオ、フェラーリ、ランチア、フィアットといったイタリア車、クライスラーなどのアメリカ車をはじめとする自動車関係から評価を得られるようになった。

「お客様の顔ぶれを見ながら、時代の流れの変化を感じます。世代交代やなぁと」

そう語る津村社長の後継者として、 柏木智次専務とともにその新しい客層を広げているのが津村豊光技術開発部長だ。ディスゴにも関わり、ラフレを開発した張本人でもある。

「塗料の開発のなかで、なかなか手に入らない顔料がありましてね。自分たちでつくったのです。その経験が技術開発の成功につながっていったのではないでしょうか。ラフレ開発の苦労といえば、やはり薄さの勝負。粉砕して分散する技術が一番、難しい。塗った時にきれいに積み重なるよう、かたまりがないよう均一につぶしていく。偏らないように、厚くつきすぎないように、粉砕して分散する技術なんです」(柏木専務)

表面処理は、顧客の使用環境によって、求められるものが違ってくる。それに一つひとつ対応してきたからこそ、技術力もついた。 月に何十トン単位もの仕事の受注の仕方ではなく、多品種微量でやってきたことが、成長につながった。これからは、小さくて強い集団にしていきたいと、 津村部長は語る。
「次に目指すことは、作業性。いい技術というのは今や当たり前で、気むずかしい商品は使いづらい。表面のすべりが良いとか、表面に傷がつかないとか、傷がついても大丈夫とか、そうした製品をつくっていきたいと思っています」(津村部長)

設備をつくり、塗料をつくり、世界中に拠点もつくる

世界に名を売る日本ラスパートだが、目指すのは規模の拡大ではなく、技術の拡大。広げるのではなく、掘り下げていきたいと津村社長はいう。

めっきで忙しい時代から、ラスパートを開発しはじめていたこと、摘発から自分が動かなければすべてが終わってしまうと行動してきたこと、こうしたすべてが新たな技術を生むことにつながった。

そして最後にこう加える。
「今、何がバネになっているかといえば、排水への矛盾。生産活動にあけくれて、公害に対する勉強をおこたったこと、これが私の原点なんです。そんな私にとって第1工場の全自動1号機は、まだ、未完成。日本ラスパートでやっていること自体が、すべて、実験装置なんです」

摘発されてから、公害問題に対する自分たちの立ち位置がわからないと、悩み続けてきた津村社長。その答えを、「研究し続けていくこと」で、自分達の存在意義を見つけ出したのではないだろうか。

カメラマンの目

人間とおんなじ!

人間は、変化を続ける生き物。
最初は尖っていて、人を傷つけることを言ったり、自分も傷ついたり・・・
しかし、歳を重ねるごとに(いい意味で)丸くなり、人の意見を聞き、人を傷つけることも少なくなっていく。

日本ラスパートの工場で見た熊手。
加工前の材料をかき出すところでは、真新しい先が尖った熊手を使い、がっつりと材料を集めている。その後、中間行程のところでは、少し使い込まれた熊手、そして最終工程の仕上げのラインでは、かなり歳をとった古い熊手が・・・。

職人さんにたずねてみると「最初は傷がついてもいいので、新しい熊手、それから行程を進むにつれて古いものにと代えていくんです。最終仕上げでは、一番丸くなった熊手を使うんです。だって、傷がつかないでしょ」との答え。

なるほど、熊手も人間と同じような歳のとりかたをするんだな、と関心した。