第1話
「電気の交差点」を守る男たち
東日本大震災により、東北の街明かりは消失。
日本中が底知れぬ不安に襲われていた。
そんななか、暗黒となった被災地に光を届けようと、懸命な復旧作業にかけずり回る男たちがいた。
2011年3月11日、夜。
東日本大震災により、東北の街明かりは消失。
日本中が底知れぬ不安に襲われていた。
そんななか、暗黒となった被災地に光を届けようと、
懸命な復旧作業にかけずり回る男たちがいた。
発電所から街へと電気を送る変電所で、
なくてはならない「電気の交差点」を守っている日新電機の社員たち。
「なんとかして、明かりを灯さなければ・・・」
送電線の向こうから伝わってくる人々の不安が、彼らの心を突き動かした。
震災から数日後、東京の街も暗かった。
節電により、ネオンがすっかり消え街灯もめっきり減った。
これまで見慣れていた街並みは、まるで別の表情をしている。
その光景に多くの人が、あらためて感じたはずだ。
灯りというものは単に光を発していただけではない。
「人間の記憶にまで入り込み、重要な役割を演じている」、ということに。
関西から全国の日新電機へ
63年に前橋製作所がスタート
灯りのエネルギー源となっているのは、いうまでもなく電気である。20世紀後半から、生活の生命線として不可欠な存在となっているが、発電所で作られた電気を工場や、家庭で使用するまでには、様々な電力系統を通って届けられる。その電気の通り道は、発電所から家庭まで一直線ではない。複数の発電所から送電線が集合され、必要に応じて各所へ分散される。この送電系統上の集合・分岐点が変電所。つまり、電気の交差点である。
電気を円滑に流すためには、交差点である変電所に、信号や歩道橋がなければならない。そうしたものをつくっているのが日新電機で、京都に本社をおく住友グループの電力機器メーカーだ。本社で製造している電力用コンデンサーや、前橋製作所でつくっている世界最小クラスのガス絶縁開閉装置などが、交差点を守る役割を果たす製品群である。
設備投資が景気を主導していた 1961年(昭和36年)に、「関西の日新電機」として知名度をあげていた同社は、電力需要を受け、関西から全国の日新電機に打って出ようと、新工場を計画。そこで、新天地として選ばれたのが群馬県は前橋だった。当初は、主力製品であるコンデンサーを前橋に持ってくる予定であったが、その後の景気後退により中止。ガス絶縁開閉装置が主力製品となって、計画から2年後の63年に、前橋製作所はスタートしたのである。
電気の流れ 超高圧である理由
電気の流れを説明すると、電気は、火力発電所、水力発電所、原子力発電所、風力やメガソーラー等の新エネルギー発電といったエネルギー源の発電所でつくられる。275,000~500,000Vの送電線を通して、昇圧(電圧を上げる)されながら超高圧変電所へと送られる。超高圧から150,000Vクラスの送電線で一次変電所、60,000Vクラスの送電線で二次変電所へ。そこから、各家庭に送られていく。
何故、超高圧でなければならないのか。それは、電気がロスをするからである。都心部より離れた場所にある発電所から、電気を使用する街まで数十㎞~数百㎞を送電するためには、いかに電力損失を少なくして運ぶかが重要になってくる。
電圧と電流の関係もわかりにくいと思うが、例えば水道からホースを使って、バケツに水を入れるとしよう。1分間で水をためるには、細いホースは目一杯ひねり、太いホースであれば、ゆっくり流しても同じ1分間で水はたまる。この水の勢いが電圧で、細い、太いが電流で、電線の太さ。そう考えれば、 太い電線では材料費が高くなり、更には太くて重い電線を支えるための構造物のコストアップにもつながり、細い電線に比べもったいないことが理解できるだろう。
ライフラインと安全を提供する 受変電設備
まず、最初にガス絶縁開閉装置について説明しよう。
ガス絶縁開閉装置とはGISと呼ばれるもので、専門的な説明になるが、遮断器・断路器等、絶縁性の高い六フッ化硫黄 (SF6)ガスで封入し密閉金属製容器に収納した受変電装置のことをいう。一体、どういった役割を持つものなのか。
電気の流れにふれてみる。
電気は数万ボルト、数十万ボルトの高い電圧で送電されるわけだが、そのまま供給されても、一般家庭で使用することはできない。発電所のそばで高い電圧に上げて、オフィスや一般家庭などの電力消費者の近くでは低い電圧に落とす。それによって照明やコンセント、空調動力などで使用することができるようになるのだ。
電柱を見上げると、電線の他になにやらBOXのようなものが付いていないだろうか。このBOXが高い電圧を低くする変圧器(トランス)で、ここで降圧された電圧200/100Vが家庭内に引き込まれている。ビルや工場など一度に大量の電気を使うような施設では、6600Vや22000V、66000Vといった高い電圧を建物内に引き込み、100Vや200Vの電圧に降圧しているわけだ。
しかし、まだこれでも電気を使うことはできない。電気を降圧することができた次は、安全だ。雷が配電線に侵入しても、配電線を守る装置、変圧器の故障時に事故が波及しないように遮断する装置や、漏水などで事故が波及しないようにする装置など、電気を安全に使う為の装置が必要になってくる。こうした機器が納められている受変電設備が、前述したGISだ。
また、前橋製作所が単体で製造している、ガス遮断器という装置は、何らかの事故が起きたときに回路を切り、電気を消す役割を持つ。家庭にある巨大ブレーカーのようなものだ。これがあることで安全に電気を使うことができるわけだが、事故が起きたときは、いち早く、健全な部分から事故部分を切離さなくてはならない。
冒頭、被災地の話をしたが、「早く、灯りを届けたい」と、現場の人たちが賢明に走り回っていたのは、このため。彼らにとって大事なことは、常に街に灯りをともすことなのでる。
次回は、世界最小へ挑戦したGISの成功と、新たな市場への挑戦を紹介する。