第3話
【鉄は熱いうちに打て!】株式会社神戸製鋼所 加古川製鉄所様
「グローバル化」・・・今、どこの企業でも叫ばれている言葉だが、鉄鋼業界こそ、40年近くも世界トップクラスの水準を維持し続けてきている。安定的な輸出も国際競争力の結果であり、これだけ長い期間、国際競争力を維持している産業が他にあるだろうか。
「グローバル化」・・・今、どこの企業でも叫ばれている言葉だが、鉄鋼業界こそ、40年近くも世界トップクラスの水準を維持し続けてきている。安定的な輸出も国際競争力の結果であり、これだけ長い期間、国際競争力を維持している産業が他にあるだろうか。
その競争力の源泉は高い技術力であり、戦争直後の復興期、高度成長期、欧米先進国へのキャッチアップの過程で、飛躍的に成長した技術を支えてきたのは、言うまでもなく「人」である。設備導入により、知恵を働かせ、腕を磨いてきた現場の技術者たちの技術やノウハウの蓄積が、生産性向上に結びついた結果である。
一方、80年代後半から鉄鋼各社が推進した合理化により採用を抑制したことで、30〜40代の中堅技能者が不足しているという。50代のベテラン技能者の次の世代が30歳という現状のなか、”技術伝承”は、どのように行われているのだろうか。
人材育成の道場「STAR作戦」
設備導入や改良を重ねながら、 技術力を高めてきた 加古川製鉄所でも、自動化の流れで仕事のスタイルは随分と変化した。一昔前なら、現場の熟練工に怒られながら、仕事を体で覚え、技術を体得したものだった。
修理も自分たちでやり、創意工夫して仕事の環境を良くしていく伝統が引き継がれてきた。そうした文化も含め、ベテランと若手をつなぐ中間層が不足しているなか、「世代交代」は、重要テーマとなっている。
その対策として、設置されたのが、 STAR作戦だ。
STAR作戦とは、Skill(技能)の¨S¨、Technology(技術)の¨T¨、Advancement(高める)の¨A¨、Rolling(継続活動)の¨R¨。操業関連で2年、設備関連で3年、これを目標に一人前にしていこうと、仕組みづくりに取り組んでいる。技能については、1点から5点の5段階評価が導入されており、まずは一人作業ができる3点を取ることが目標だ。3点から4点、5点にあがるのは、難度が高い。
「若いリーダーの育て役は、班長です。以前、班長は55歳で引退でしたが、STAR作戦の教育期間として2年間延長しています。若手が一つのポジションで一人作業ができるようになるまでの目標は2年ですが、実際、その期間で一人前になるのはなかなか難しいことです。本来であれば、すべてのポジションを操作するのに、10 年は必要です。現在は、合理化の流れで人員が減少したこともあり、2年で一人前に育てなければなりません。かといって、短時間に詰め込み教育をしても、成果はあがりません」
鉄が美しくすっと流れれば良いのだが、問題は、トラブルが発生したときにどう対処するかである。 次々と進化する機械は、トラブル時の対応が難しく、自動化の後に入社した人たちは、設備、構造を知らない上に、トラブルの経験も少ない。
特に操作系は、数値で表せないだけに伝承は至難の技だ。美しく、力強く流れている圧延機の前のオペレーター室では、そのダイナミックミックな光景とうって変わって、「どっちが波を打っているのかを見る」、という数ミクロンの世界が繰り広げられており、そこでは、長年の間に培われた技術者の経験と勘が一瞬を左右する。
そこで活きてくるのが、ベテランの指導だ。ベテランと若手がタッグを組むことで、お互いが技能継承という課せられたテーマに向かい、乗り越えていく意識が芽生える。
「自分の子どものような気持ちで、親身になって一緒に考えて、乗り越えて行くことが大事」と語る工場長。ベテランから若手への技術継承は、今、成果が出始めたところだ。
次世代を担う人材、男顔負けの女性の活躍
こうしたリーダー教育の成果は、新人にも好影響をもたらしているようだ。「今年入ってきた社員たちの眼の色が、だいぶ変わってきた」と、工場長は安堵の笑みを浮かべるが、ライン実習で10月から正式にメンバー入りをする。
なかでも、注目したいのは、女性の活躍である。鉄鋼業界というと、「男の世界」というイメージが強いがここ、加古川製鉄所では、女性が頑張っている。生産現場を希望する女性が少ないなかで、さらに鉄鋼業界に足を踏み入れる女性は比率からすれば少ないかもしれないが、他の産業に比べて、男女分け隔てない環境に、やり甲斐は大きいようだ。
「男性顔負けでドロドロになりながらやっています。『私は班長になります』という積極的な姿勢には、驚かされますね」(工場長)
学ぶ人の意識を高める
仕事というのは一人ではできない。協調性を持たせるような仕掛けをつくり、皆で力を合わせてやっていくことで、チーム力を強化していかなければならないが、その雰囲気をどうつくるかである。そんな人材を生み出すための秘訣を、語ってくれた。
「技術を伝承するためには三つの要素があります。一つは、教えるための良い教材があること。現場でいうと作業標準や過去のトラブル事例集等にあたります。二つ目は、教える人が高度な技能を持っていること。そして、三つ目は、生徒が聞くかどうか。一生懸命教えても、生徒がどれだけ聞く耳を持ってくれるか、振り向かせることができるかどうかで結果は変わります。これらはすべて掛け算で答えが出ますから、聞く耳を持たない生徒がいたら、全て0になってしまいます。
新しく入ってきた人材に対して、モチベーションをあげて聞かせるように工夫することも大事です。」
前述したように、国際競争力を維持してきた鉄鋼業界だからこそ、良い教材と良い指導者を、自前で揃えることができる。その 経験に裏打ちされた良い教材と良い指導者から、精神が柔軟で、吸収力ある若手に伝えられる伝承、文化は、必ずや、 生徒も耳を傾けるに違いない。まさに、「鉄は熱いうちに打て」である。
次世代を担う「STARの誕生」が、どんな活躍を見せてくれるのか、将来が期待される。