第2話
【馬に捧げた人生物語】日本スターティング・システム株式会社様
美浦のトレーニング・センター(トレセン)では、まだ、薄暗い中から調教の準備がはじまり、夜明けを迎える。
夏場は特に朝が早く、一番忙しい時期でもある。4時20分に起床、 5時15分開始。
200頭程の世話をするのが水木金の日課だ。
ウッド式発馬機導入で変わった競馬会
馬は生きもの
美浦のトレーニング・センター(トレセン)では、
まだ、薄暗い中から調教の準備がはじまり、夜明けを迎える。
夏場は特に朝が早く、一番忙しい時期でもある。
4時20分に起床、 5時15分開始。
200頭程の世話をするのが水木金の日課だ。
第1話でのバリヤー時代の悲喜劇では、騎手泣かせの馬が後をたたなかったが、
ウッド式のゲートを導入したあたりから、ゲート癖馬はかなり減少した。
1961年から資料を見てみると、枠内不良は1,232件、駐立不良は1,038件。
これが、74年になると、枠内不良が70件、中駐立不良は50件と
明らかに減少していることがわかる。
そのことに大きく貢献するのが、トレセンでの調教であろう。
言い方を変えれば、バリヤーからウッド式に改められた時点で、
一番大変だったのが、
ゲート枠に入れるようにしなければならなかった馴致・調教なのである。
馬と人間で創り上げている競馬の世界だけに、
生き物を扱う難しさはいうまでもない。
「馬は臆病な動物。 音、声への反応には敏感で、警戒心は強い。
ダービーとか、G1があると、お客さんの歓声に反応してしまいます。
発走地点がスタンドに近いと、
馬も興奮し、テンションがあがってしまう」(福田所長)
駐立不良の馬は、スタートの緊張に耐えられず、枠内で立ち上がったり、
突進してゲート外に飛び出したり、
座り込んだりという現象が生じる。
これには、気性の激しさなどもあるだろうが、
「競走馬には、競争させなければ、
人間が生み出した走る芸術品でも何でもなく、無意味なものである。
激しい馬ほど、競走馬として大成した馬は枚挙にいとまがない」
と、トレセンの人は語る。
競走馬として生まれてきた以上、
多くのレース経験を与え、一つでも多く優秀な成績を残すことが使命である。
癖馬との闘い
激しい悪癖により発走を遅延させ、
または、他の馬に危険を及ぼすおそれがあると認めた場合は、
発走から除外されてしまう。
どんな場合かというと、
ゲートに枠入りした馬が立ち上がったり、座り込んだり、激しく蹴ったり、
ステップの上に肢をあげたり、などがあげられる。
こうした駐立不良で発走除外という最悪のケースにつながらないよう、
日頃から十分な調教をつみ、悪癖の矯正に注力しなければならない。
ゲート調教でもっとも苦労するのが
「駐立不良」「枠内立ち上がり」「突進」だが、
ここは現場の人間の知恵の出し合いだ。
目隠しや、ロープなど色々な道具をつかって矯正する。
約1ヶ月間を目処に、15分から40分、
枠内は安全で、痛くも痒くもないことを徹底的に教え込む。
そして、人参、青草、角砂糖などを持参し、
少量づつ与えながら馴れさせていくのだが、
実際には枠内で座り込んだり、寝てしまう馬が多く、
これらの方法を実施するのは容易なことではない。
「調教師をはじめとする厩舎の人間たちのチームワークが重要であり、
人と馬の根競べのようなものだ」、と現場の人たちは語る。
「こうした癖馬のレース前日のチェックも欠かせません。
『 5レースの3番は、右に右にとよけるので、右に行かないようにこれを貼りなさい』
といった具合の打ち合わせをやる。
馬の特徴は全部調べなくてはなりません。
朝の調教の際、スターターが癖をパソコンに打ち込んでデータを作成します。
毎日、新しい馬がきますから、新しいデータをもとにチェックします」(福田所長)
馬は、温順で親しみやすい。
また、強い記憶力がすぐれており、愛撫に対して敏感だ。
その反面、驚きやすいところがあり、乱暴な扱いや懲戒を受けると、
不安を感じ、反抗することがある。
こうした馬の心理を察して、愛撫と忍耐に徹することが、
順調に調教のステップを踏んでいけることにつながるのだ。
競走馬へのチケット
競走馬は生まれたときから、勝負を運命づけられている動物である。
ゲート調教がうまくいけば、いよいよ試験だ。
試験は本番と同じゲートで行われる。
「『枠杁が良いか』、『駐立できるか』、『あばれないか』、
『扉を開けてまっすぐ出られるか』など、
1回で合格するために、猛練習してきた成果が試されるときです。
合格できなければ、
どんなに値の高い馬でも競走馬にはなれませんからね」(福田所長)
発走員が2回の試験をやり、独自で合否を決める。
不合格であれば、何度でも挑戦する。
この試験に通れば、はじめてレース出場権を手にすることができるわけだ。
「馬は可愛い。試験に受かると嬉しい。
その苦労のあとに、何戦かして優勝したりすると、本当に感動します」
この道40年のベテラン所長だけに、忘れられないレースは山ほどある。
世話をした馬が、G1なんかに出てくると、馬体の筋肉が一段と美しく見えるという。
馬と人間の独特の世界が、ここにはある。
さて、トレセンでの調教について語った2話から、
3話では発馬機の技術面にふれながら、話の舞台は競馬場へ。
日本スターティング・システム株式会社
取材地:〒300-0415茨城県稲敷郡美浦村美駒2500-2
(美浦トレーニングセンター内)
TEL:(029)885-4504 / FAX:(029)885-4509
取材協力 関東事業所 所長 福田悦男 様