第3話
【世界のものづくり会社を支える小さな頭脳】株式会社松浦機械製作所様
成功の影にパートナーあり
フライス盤からはじまって、マシニングセンタ、5軸加工機と、数多くの製品を世に送り出してきた歴史を伝えてきたが、3話では、マツウラの経営戦略について触れてみたい。
工作機械業界は、市場、ニーズ、どこを狙うかで、大きく分かれてくる。
大量生産か、多品種少量生産か、である。
「この業界の一番大きなマーケットは自動車業界ですが、我々はそこにターゲットをおいていません。何故かというと、大量生産ですから、機械の能力よりもローコストでできることが優先だからです。我々が勝負しているのは、コストではなく、精度です」(近藤取締役)
多品種少量生産に特化しているだけに、顧客は圧倒的に中小企業が多い。ヨーロッパの会社も集計すると、500人以下で80%、100人以下だと50%くらいだという。
「お客さんも、その時代に合わせて、他の加工屋さんと違うことをやらないと生き残っていけないわけですから、ハイテクな機械を必要とします。そういう会社にうちの機械を使ってもらいたい。1年365日、同じものを何万個もつくっているところに、うちの機械は入りませんが、生産コストが高い加工会社の思考には、うちの機械が合います。
機械の値段が高くても、高いパフォーマンスの結果が出ることを求めるからです。我々が中国だとかアジアに弱いのはここに理由があります。安いものを多く生産していれば、当然、高い機械は入れられません。アジアを攻めるためには、飽くなき夢を追い、一歩先ゆく会社を探し出し、そこへ機械を提供して行かなければいけないと思っています。そうしたことが、ものづくりの能力をあげることに繋がるはずです」
海外を攻める三浦GMは熱く語る。
ある意味、マツウラは、多品種少量生産をしているものづくりの会社を支えているのである。そうした会社が次々と新しい商品づくりができるよう、マツウラも知恵をしぼっていかなければならない。
だから、アイディアの詰まったコンパクト設計にこだわる。
どんな業界でもビジネスヒントは顧客にある
顧客が何を削っているのかを知るには、とにかく現場を回る。ネタ探しだ。
「お客さんのところへ行くと、勉強になります。色んなものを削っていますから、驚かされることが多いですね。糖尿病用の注射器をつくっているとか、金を削っているとか、特にスイスの会社では、多くのものを得てきました。
日本人の考え方とだいぶ違いますね。例えばスイスの時計でいいますと、日本だったら、どんなに高くても、精々50万円くらいでしょう。スイスでは、最低50万円なんです。100万円、500万円はあたりまえで、1000万円、時には3000万円のものが売れるのです。
どういう人が購入うるのかというと、アラブの大富豪、ハリウッドのスターなどです。日本人は、時計は時間を知るための機能ですが、高額な商品を手にする人たちの感覚はアクセサリー、宝石なんですね。スイスには、うちの高速で加工できるLX-0という機械を売りに行ったのですが、高速である必要はないというのです。何故かと聞くと、こう応えが返ってきました。
まずは、その土地の雇用の確保、社会的責任です。それとブランド力を守る。数をつくる必要はなく一日に数個で良い。それ以上つくるとブランド力が壊れるからです。全部、手作りなのです」(天谷取締役)
こうした顧客に特化しているからこそ、マツウラのアイディアはネタ切れすることはない。良い顧客に出会うことが、マツウラの発想をさらに開花させるのである。
このマツウラ物語のタイトルに「世界のものづくり会社を支える小さな頭脳—」とつけたが、小さな頭脳とは、マツウラの人間の知恵、発想、高性能が、機械の心臓部に凝縮されているという意味なのである。
クレームから、絶対に逃げない!
技術開発のなかでのエポックメーキングな発明に、忘れてはならないのが、強力なパートナーの存在だ。
FX-5をやったときは、某NCメーカーのパートナーがいたからこそ、主軸の開発で20000回転に成功した。
また、高速の先鞭をつけてくれたのは、某軸受メーカーだった。
パナソニック電工株式会社様との共同開発で金属光構造形複合加工機を生み出した。
「良いパートナーに恵まれてこそ、良い仕事ができる」という天谷取締役。
新しいアイディアがあって、一緒にやってくれる協力者がいて、新しいものを生み出すことができる。
出逢いから、開発ははじまるのかも知れない。
東海バネ工業も、そのパートナーの1社であるが、長い付き合いとなるきっかけとなったのは、意外にも激しい意見交換からだった。
東海バネの皿ばねを採用して納品したあるお客さんから、「スピンドルに使っている皿ばねがさびてしまった。どうにかしてくれないか」と、マツウラの担当者横井信一マネージャーのところに電話が入った。
「なんとかしなければ」と、頼みの綱の東海バネに電話するも、話がうまくいかない。そんな困り果てていた横井マネージャーのところへ、当時の技術部長だった夏目直一と数人が、マツウラを訪ねてきた。
「すぐに対処します。状況を見せていただきたい」
何度かのやりとりの結果、問題は解決した。
「その誠意ある対応があったから、今、こうして付き合いが続いていると思います」と横井マネージャーは語る。
東海バネとのパートナーシップで、共同研究をした実績も持つ。皿ばねと組み合わせるドローバーの処理の技術的な問題があり、そこを両者で知恵を出し合い、実験、検証をした。その成果物が、43000回転のスピンドルのなかにも、継承されて組み込まれている。
クレームは絶対に逃げない!万国共通、海外のお客様も同じ!
現場で知る問題の一つ一つが、結果的には商品の向上につながる。
「クレームがきたら、すぐに行け!とことん、やってこい!と常に言っています」(天谷取締役)
この何事にも逃げない、諦めない精神は、
強いエネルギーとなって、どんな山でも乗り越えて行くことだろう。
完
株式会社 松浦機械製作所
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取材協力 株式会社 松浦機械製作所
取締役品質本部長 近藤好治様
取締役技術本部長 天谷浩一様
営業本部 海外営業 ゼネラルマネジャー 三浦一男様
技術本部 開発研究マネージャー 横井信一様