第4話
「えっ、水車?」を「誇り」に変えたい

水力の未来を左右する「羽根」の効率改善。
この大役に挑む技術者の一人、入社2年目の渡邉貴人さん。
1%という壁を越えるため、地道な努力を積み重ねる毎日に
どんな夢や誇りを抱いているのか。
一問一答の対話から、熱き志を語っていただいた。
日本には、ものづくりの会社は多いですが、
あえて「エネルギー」というものを選んだ決め手は何でしょうか?
私は広島出身です。広島でものづくりといえば、自動車産業が圧倒的ですが、もっと色々な製造業を知りたいと探していくなかで、「水力」という二文字が目にとまりました。今、世界が地球温暖化という大きな転換期にあるなかで、水力発電の持つ潜在能力に強く興味を持ったのです。誰もがエネルギーのあり方を意識する時代だからこそ、社会の役に立てる確かな手応えを感じたくてこの道を選びました。
水力システム部の技術グループで活躍されていますが、
どんなことに挑戦されていますか?
水力発電の中核をなす「水車(回転部分)」の効率を極限まで高める設計・解析が私の仕事です。高いところから落ちてくる水を電気に変えるのですが、水のエネルギーを100%電気に変えるのは、理論上不可能なんです。現在の80~90%台の効率を、わずか1%でも削り出すために、最新の解析技術を駆使して取り組んでいます。
設計プロセスでは、コンピュータ上で高度な流体解析を行い、精密な形状を導き出します。その設計が目標の数値をクリアしているかどうかの実証は、コンピュータ上と、工場内の水力試験室にて確認します。発電所サイズを縮小した水車をつくり、水を流して回し、効率が出ているかどうか。バーチャルとリアルの両面から検証を重ねることで、1%の効率向上に挑戦しています
理論上の限界に挑むなかで、シミュレーションと実験の結果が
ピタリと一致した瞬間に手応えを感じる。まさに、デジタルとリアルの融合ですね。
今、何パーセントまで可能になっているんですか?
そうですね。水車ごとによって数値は変わってきますが、今着手しているなかでは、91%、92%を目標にしています。発表された最新の論文から情報を得て、読み解きながら、その形状を参考につくっていますが、トライ&エラーの繰り返しですね。イームルにはそれができる環境が整っています。
それは、ものづくりに向きあう社員にとって最大の強みだと思うのですが、工場が併設されている敷地内には、設計から検証、製造までがコンパクトにまとまっているんです。自分が設計している解析上の理想の形状が、製作上可能かどうか迷った時、すぐに工場へ足を運びつくる人と対話しながら進められます。この距離感が、開発の初期段階で懸念を払拭してくれるので、机上の空論ではない生きた設計を可能にしくれると思っています。大規模組織になると、なかなかそうはいかないですよね。ITツールを使えば会話は可能ですが、「どうすればより良くつくれるか」を共に考える「膝を突き合わせる対話」が一番効果的、最善のリアルだと思います。
その距離が、技術者と職人の間の「リスペクト」を育み、
工場全体で「最高の羽根」を生み出す連帯感につながっていると言えますね。
イームル工業さんは来年、80周年を迎えられますが、そんな歴史の重みを感じる時とは?
最も時代の流れを実感するのは、自分が生まれるよりずっと前に描かれた設計図を手に、水車の修繕に挑む時です。何十年も前の先人の仕事に触れられる瞬間ですし、水車もイームルも長く続いているんだと歴史を感じます。短期間で消費される製品をつくる産業が多いなか、半世紀以上前のエンジニアと「設計図」を通じて対話できるのは、水力発電事業ならではの特別な体験です。そのなかでいつも感じるのは、今も昔も、水車の基本的な形状、機能はほとんど変わっていないということですね。
形状がほとんど変わっていないのは、自然の摂理にかなった形であり、
水力発電が「100年単位のインフラ」と言われる所以が、その一言に凝縮されています。
そんなイームル工業の、社風についてはどう感じていますか?
伝統を重んじる一方で、組織の風土は非常にオープンです。世代の壁はなく、若手が日常的に「こうすればもっと良くなるのでは」と意見を交わし、実際に会社のルールが改善された事例も少なくありません。我々若手からすると、既存のルールに対して「なぜこのルールがあるのか」という背景や理由を知りたいのです。慣習に従うだけではなく、その目的を理解した上で、現代に合った形に提案していく若手の声が届く会社です。
学生の頃に描いていた社会人のイメージは、会社の方針に従って歯車の一部になるというものでした。自分の意志や主体性は二の次で、決められたレールの上を進むのが仕事だと思っていたのです。実際、イームルに入ってみると真逆でした。一つとして同じ条件の河川がないように、発電所はすべてが一点物のオーダーメイドです。現場ごとに何が必要かを自ら考え、主体的に動かなければ、水車に命を吹き込むことはできません。自分が分かった上で行動する。その責任と主体性こそが大事であると学びました。
人から人への直接的な教えが、技術継承の核になると思うのですが、
ゼロからのスタートを支えた先輩の言葉で心に残っていることは?
大学時代、「水車」というのを知る機会がなかったので、入社した頃は何もわからなかったんです。そんな時、「わからないことをそのままにするのは一生の恥。まずは聞くことだよ」と先輩から教わりました。しっかり聞いて、それを自分のなかで活かすことが大事だという教えを、今でも大切にしています。そんななかで先日、先輩に手助けしてもらいながら、初めて自分自身で設計を手がける経験をしました。その水車は今、海外にあるのでまだ実物は目にしていませんが、それが組み立てられるのを早く見たいですね。とても楽しみです。
「聴く力」こそが、1%の改善に挑むための土台となったのですね。
これから、外に向けて水力の魅力をどう発信していきたいですか?
大学時代の友達と会った時、仕事の話をすると、みんな決まって第一声が、「えっ、水車をつくってるの?」となります(笑)。身近ではないですからね。自分が何に挑戦しているかという話までいかず、大抵、会社が何をやっているかで終わりますね。
100年以上積み上げてきた水力発電は、元からあった再生可能エネルギーです。その視点をしっかり伝えられていければいいなと思いますし、川の多い日本ですから、ちょっと大袈裟かもしれませんが、日本を支えていると感じています。新しい技術を導入することだけが革新ではなく、すでにある自然の恵みとインフラを、現代の技術で次世代に繋ぐ姿勢こそが、これから日本が目指すべき循環型社会の理想像だと思っています。「えっ、水車?」という驚きが、「日本の未来をつくっているんだね」と変わる日は、そう遠くないことを祈っています。(渡邉貴人様)

第4話『「えっ、水車?」を「誇り」に変えたい』
イームル工業株式会社様
取材ご協力
渡邉貴人 様
取材
東海バネ工業 ばね探訪編集部(文/EP 松井 写真/EP 小川 )







