ばね探訪 - 東海バネのばね達が活躍するモノづくりの現場をレポート

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東海バネ工業株式会社

雪上のレーシングライダー | 山本新之介 様

第2話

【雪上のレーシングライダー】山本新之介様

ニューマシンに乗って競技出場を続けていた山本さんは、自分のマシンのばねに限界を感じていた。
ダンパーとのマッチングに納得がいかなかったのだ。跳ね回り、振られながら滑るトップクラスの選手や自分のマシンを見ながら「もっと安定して滑ることが出来れば、タイムも上がるのに」と考えていた。

プレイング・チューナー

東海バネとの出逢い
ニューマシンに乗って競技出場を続けていた山本さんは、
自分のマシンのばねに限界を感じていた。
ダンパーとのマッチングに納得がいかなかったのだ。
跳ね回り、振られながら滑るトップクラスの選手や自分のマシンを見ながら
「もっと安定して滑ることが出来れば、タイムも上がるのに」と考えていた。

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バイクのレースで、跳ね(チャタリング)が出れば、タイムは伸びない。
「これは、ばねの仕事量と、ダンパーの押さえの関係が上手くいっていないからだ」

しかし、ナショナルチームは速いタイムを刻んでいる。そうなると、周りはそれが正解だと考える。
「みんなに正解なセッティングだから、お前にも正解なんだって言われると、
ああそうかな、と納得したこともあります。
でも、僕に合うセッティングもあるはずだと思い続けてもいたんです。
で、いろいろ調整していったんですけれど、結局ばねが合わないんだという結論に辿り着き、
自分専用のばねをつくろうと思ったんです。

人それぞれ、セッティングが違ってもいいはずだと。
今あるものに身体を合わせるのではなく、
自分の身体に合わせて、一から作ってしまえと思ったんです。
そうすれば、
もっと安定して速く滑れるマシンに仕上げられるんじゃないかって。」

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そこで、新しいばねを作ろうと思い立ち、
東京でモータースポーツに特化したばねを製作している
BESTEX株式会社の石山さん(社長)に相談をし、3種類の仕様違いのばねを巻いてもらった。
そのばねを用いてトレーニングに臨み、
ある一定の手応え(足応え)を感じることが出来た。
石山さんからは、ばねの理論や特性などについて、色々と伝授してもらい、
自分のサスペンション理論を山本さんは確立していったという。

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そして、
次のステップとして、違う設定のばねを作ってもらおうとした時、
ばね業界には未曾有の不況が押し寄せていた・・・。

「 特注のばねを作ろうとしても、特殊な鋼材の在庫がないとか、
色々なご事情があって、 ばね業界も厳しいようで『この冬は間に合わないね』と石山さんに言われてしまったんです。
でも、同時に『東海バネさんのホームページを覗いてみろ』って言ってくれたんです。
『1本から作ってくれるところがあるらしいよ』って。
それで、
ご連絡させてもらったのが東海バネさんとのお付き合いのキッカケでした。
本当に石山さんには感謝しています。」

「東海バネさんには、
まず最初、BESTEXさんに作ってもらっていたばねの現物をお渡しし、
もう一度同じ仕様で作ってもらうことから始めようと思いました。」
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セッティングというものは、いっぺんに何カ所も変更してしまうと、
どの変更がどう作用したのかがわからなくなってしまうもの。
基本は、ひとつひとつ積み重ねて変化を確認していくのが常套手段だ。
だから、最初は同じ仕様を作り、それをベースとして再スタートを切ったというわけだ。
しかし、同じ仕様と言っても、職人のさじ加減で、変化することも多い・・・。

「もちろんプロのばね屋さんだから、安心できました。
同じ仕様のものを作っていただければ、これまでにやってきたテストの続きが出来るし、
これまでのデータ蓄積が無駄にならずに済むんです。
当然、多少の誤差は出ると予想していましたが、僕と森井大輝選手と鈴木純也選手という三人のチェアスキーヤーで
実際に滑って検証してみた結果、問題ない、ということで、今、お世話になっているわけです」
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東海バネの職人たちが、丹精込めて巻いたばね、果たしてその使用インプレッションは・・・?

2-3.5

「劇的に変わりましたね。これは間違いない方向だ、と確信しました。
もちろん細かいところでもう少し注文したいところは出て来ると思いますが。
減衰力っていうダンパーの調節があるんですけども、
それがもう、今までの常識では考えられないくらい変化しました。
やっぱりばねに仕事をさせるっていうのはこういうことだなと。今までのばねだと動き過ぎるんです。速く沈んで速く伸びちゃう。
速く沈んじゃうっていうことはサスが底付きをし、結果、衝撃を吸収できない。
速く伸びるっていうことは、一気に跳ね飛ばされちゃうんです。

その「動きすぎる」ばねの動きを、減衰力っていうダンパーの機能で制御する。
それでは本末転倒なわけです。
スムーズな挙動を得るためには、ばねが本来の仕事をしていなければいけないんです。
ばねが本来の仕事をしてくれおかげで、セッティングの幅がとても広がりました。」

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ばねは膝の筋肉

「チェアスキーが跳ねちゃうとタイムも遅くなりますし、着地するリスクもあります。
ばねは「膝の筋肉」なんです。
チェアスキーそのものすべてが体の一部のようなものですからね。
椅子とスキーを繋ぐリンクは膝の動きですし、シートはブーツと同じような…
健常者ならブーツの中で親指の先とか根元とか踵とか色んなところで力を分散させて力をコントロールしますが、
そういう細かいコントロールはシートの中で行います。
そして、ばねは先ほど言ったように膝の筋肉です。すべてが自分の体の代わりになってくれる部品で出来ています。
それをひとつずつ、良い物を作っていければ間違いない物ができるはずです。」

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こうした山本さんの努力の甲斐もあって、
山本さんのトライを見守る仲間たちもの存在を次第に意識し始め、
ナショナルチームの中でも、ばねの重要性が認識されつつあるという。

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「鈴木純也選手は一番相性のいいセッティングが見えつつありますし、
森井大輝選手にも、いいばねだっていうコメントをもらっています。
ナショナルチームには、
KYB(KYB株式会社)さんのサポートを受けられている選手がいるので、
そのあたりの兼ね合いが課題ですが、垣根を越えて、東海バネさんとKYBさんが組んで一緒に仕事をすることができたら、
最強のサスペンションセットが完成するんじゃないかな?と思います。
その為にはしっかりとパイプ作りを東海バネさんにお願いしたいですね。(笑)」

チェアスキーに限らず、1本だけばねが欲しいという人は多いと思う。
そんな悩みにも東海バネは応えてくれる。そのシステムに、山本さんは感心していた。

「色んな仕様のばねを作ってもらうというのができるので非常に有り難いです。
だからチェアスキーだけじゃなく、
モータースポーツでも、本当に細かい自分の好みで作り上げて行くことができるので、
どんどん東海バネさんをいいように利用していただきたい(笑)。

ばねは出来たものを買うっていう意識があるでしょう?
カタログに載ってるばねを買ってつける、それが合わなければこっちを買ってつけるって。
BESTEXさんのばねは間違いないと感じていますが、
でも、一個一個作っていくのも楽しいですし、
自分に合うサイズのばね、
自分のセッティングに合うばねっていうのが見つかると、
こんなに幸せなことはないだろうなと思います。

モータースポーツじゃないにしても、ある機械を最適に動かそうと思ったら、
ひとつひとつの部品を吟味していくことになってくるでしょうしね。」
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・・・・・第三話に続く。

山本新之介

本人によるブログ:http://robo1101.blogspot.com/
「チェアスキーで、雪の積もらない町からソチへ」

仕様マシン:Nissin製トリノモデル / Elan!

取材協力:山本新之介様