【雪上のレーシングライダー】山本新之介様

コースを周回して大勢で競い合う訳ではないが、マシンへの情熱、セッティングの考え方、真摯な姿勢、そこには、一般の社会にはない世界が広がっていた。セッティングひとつで、マシンを信頼出来るかどうかがキッパリわかれる世界。自分自身を預けることの出来るセッティングを求めて、山本さんの試行錯誤は続いていく。

決して満足することはない・・・・

「 チェアスキーはやめられないですね。自分の滑りを考えて、
その過程で、ばねを作りたいと思うところまで辿り着いた。
でも、未だに結果が出ていない、まだまだ上を目指していきたい、全然満足出来ていない、それがやめられない理由ですね。
そしてチェアスキーのフレーム作りまで参加したいと思ってしまう。
最初、長野のテレビを見たとき、
ソルトレイクかトリノには出たいと理由もなく漠然と考えていたんですが、
バンクーバーにも出られず・・・、だからソチを目指す。
最初に、パラリンピックに出ると周囲に宣言して始めちゃったから、
出ないことには終われないじゃないですか!
もちろんバイクのレースにも、未だ未練がありますよ。(笑)」

チェアスキーのレース現場を初めて見たとき、
裏での作業は、まるでサーキットのパドックにいるような感覚だった、と山本さんは語る。

コースを周回して大勢で競い合う訳ではないが、
マシンへの情熱、セッティングの考え方、真摯な姿勢、
そこには、一般の社会にはない世界が広がっていた。
セッティングひとつで、マシンを信頼出来るかどうかがキッパリわかれる世界。
自分自身を預けることの出来るセッティングを求めて、山本さんの試行錯誤は続いていく。

「セッティングに苦労し続けたジャパンのメンバーも、
バンクーバーでは大活躍をしました。さらに選手の滑りに完璧なセッティングが出来れば・・・。
技術とモチベーション、モノをキッチリ合わせること・・・それが本当のセッティング。
日本には、いい技術があって、いいレーサーやいい職人がいる。
僕はモータースポーツのエッセンスを、チェアスキーに取り入れたいんです。
まだ、それをやっているところ(国)はない。それが出来れば、もう、ジャパンは最強ですし、僕もその一角に加わりたい。」

「この取材に応じたのも、そういったマテリアルのトータル的なコーディネートに協力してくれる企業や人を求めているからなんです。
企業のメリット、デメリットを超えて、
お金だけではない、本来の意味でのスポンサードをしてもらいたいんです。
それに対して、僕らレーサーは、素晴らしい滑りで、お返しが出来ると思っています。
チェアスキーに限らず、スポーツの世界は、その競技が行われている間は熱狂的に応援してもらえます。
でも、4年ごとのパラリンピックの場合、脚光を浴びた次の日から、4年後を目指した戦いが始まっているんです。
だから、その時だけではなく、継続的な応援してもらうことが、僕らの望みです」

取材を終えて・・・

山本さんは、決して自分の身体が持つ障害をアピールしない。
そんなことは笑い飛ばしてしまうような男だ。

その彼が発する言葉。
スポーツ振興のために、力を貸して欲しいという本音は、とても重く感じられた。
そして、セッティングに対するあくなき執念。
チェアスキーの前後左右のバランスを計測する機械を自作するというセンスは、レーサーそのものの姿だった。

かつて世界選手権ロードレースの500ccクラスで、
3年連続世界チャンピオンに輝いたヤマハのウェイン・レイニーは、
1993年、スズキのケビン・シュワンツと壮絶なタイトル争いを行っていた。
そしてシーズンも残り3戦となった第12戦イタリアGP、ミサノサーキットでの決勝レース、トップを快走中のレイニーは、
11周目にハイサイドを起こし、大転倒、脊椎損傷で惜しまれつつ引退した。
4年連続タイトル目指し、ランキングトップをひた走っている時の惨事だった。

しかし翌94年、マルボロ・ヤマハ・チーム・レイニーを旗揚げし、
車椅子でサーキットに戻ってきた。
監督となったレイニーは、故・阿部典史(ノリック)や、原田哲也を見出し、
世界の舞台へと送り出した。
マシンセッティングには非常に厳しいライダーだったレイニー、
故に、独走優勝が多いことでも知られていた。

山本さんのブログを拝見してという欄に、
ウェイン・レイニーという文字を見つけ、とても納得できる気がした。

完