第1話
第1話 オフィス、それは理念を実現する場
オフィスづくりは、どれだけ企業経営に影響するだろうか
完成時をマックスに、あとは陳腐化していくだけ
どんな使われ方をしているのか、調べられることもなかった
「そこに歯止めをかけたい」と、立ち上がったのは
オフィス構築の事業を手がけるウチダシステムズの岩田正晴社長
本来、空間とは使い方で変わっていくもの
人がその場でどんな日々を送り、どう成長していくのか
人と人を隔てる垣根をなくし、心地良い場所
そこで働く人たちが輝けると感じられる場所を生み出すこと
工夫し、改善し続けることが空間の価値を高める
ウチダシステムズは、そんな思いを胸に、この事業に取り組んでいる
つくったら終わりではない
そこから、オフィスでの組織力向上がはじまるのである
ウチダシステムズ誕生前夜
時は、2008年。オフィス家具販売の大手である内田洋行では、直系販売会社の強化が最重要課題となっていた。経営構造を変え、本気で販社を強くする。その使命を果たすベく販社の東京ウチダシステム(ウチダシステムズの前身)へ出向を命じられたのが、当時、内田洋行で販社強化の企画を手がけていた岩田正晴氏である。
東京ウチダシステムとは、中小・中堅企業に対して直販をやってきた会社であり、顧客に一番近い存在だった。岩田氏は社長に就任し、社員60名体制で販社強化の改革が始まった。
スタート直後の試練
「さぁ、ここからお客様を増やして、内田洋行直系販社のトップとして全国の販社を牽引し、中小・中堅企業のお客様のお役立ちをしていこう!」
期待も大きく、ありたい姿も描き、志高くスタートした瞬間、いきなりのリーマンショック。売上半減、利益も半減、そこへ1.5倍に増えた人員コストが足かせになり、スタート1ヵ月で単月の大赤字。資本から計算すると、あと4ヵ月の命という状況に転落してしまったのである。
売れませんよ、こんなリーマンのなかで
一体、どうすればいいのか。そもそも、この状況を打開できないのは何故か。現場に耳を傾けてみると、営業の活動力が十分ではない、スキルが足りていない、売れる商品を出していない、そんな話しばかりがあがってくる。結局、何かのせいにしているだけだった。
「リーマンでお客様の業績に影響はあっても、企業は打開するための手を必ず打ちます。自分たちの事業に置き換えれば、リーマン前は人員増加によるオフィス拡張のための移転が営業のチャンスでしたが、リーマン後はコスト削減ということをテーマにした移転を含む投資が起こっていました。
ウチダシステムズ
岩田 正晴 社長
我々のお客様への対応は、オフィス家具や事務用品を言われたままに販売していく受動的なやり方で、能動的な取り組みは弱かった。つまり、コスト構造の再構築といった投資テーマの変化に、家具を販売するだけのスタイルは通用しなかったのです」
待つのではなく、自ら探す
そんな時代に突入したなか、自分たちで出した答えは、お客様の立場に立ち、その上で何が提供できるのかを能動的に考えること。売れないからと待っているのではなく、お客様にとってリーマンピンチを打開するための必要なものを自分たちで探そう、と。
「それをやるにあたり、自分たちは何屋であるのかを考え直す必要がありました。何故なら我々は、お客様からオフィス家具屋としか見られていませんから、経営課題の解決というテーマで声をかけていただけない。ビジネスパートナーとしての力量を持った会社になれば、企業力を高める場づくりの相談に変わると思ったのです」
そこで、自分たちはどんな打開策を打ち出せるのか、実践してみることになった。
オフィスの移転計画づくり
そんな折、思いがけず自社の「移転」という機会が巡ってくる。自分たちが入っていたビルが取り壊されることになったからだ。それをきっかけに、中小・中堅企業のお客様から、「自分たちも、こんな投資をしてみたい」と思われるような移転計画をつくりはじめた。
計画のポイントは、これまで手がけてきた家具などの商材で投資レートを高めるのではなく、企業力を高めるためのオフィスづくり。家具は新しい物に変えずクリーニング、プロジェクトミーティングができるスペース、ペーパーレス実現のしつらえ。さらに、ゲストをお迎えできる受付の工夫。そういったところに資金を投入し、東京ウチダシステムの働き方改革の実現を目的とした移転計画ができあがった。
そもそも、営業部隊がメインの会社とあって、企画部も商品開発部も存在しない。すべて自分たちで考えて、動かなければならなかったのだが、この経験から「全員参加」でプロジェクトを遂行させる組織風土が醸成されていった。
オフィス家具、それより先に重要なことがあるよね
移転計画を進めてみると、あることに気づく。それは、業務効率化、生産性向上、コミュニケーションの活性化といった、オフィスづくりの目的を実現させる優先順位を追いかけると、自社商品の優先順位が低かった点。販売事業者でありながら、オフィス家具より先に重要なこと。この気づきが、自社の商材を売るだけのスタイルから、企業力を向上させるオフィスづくりに思考を変える、大きなきっかけになったのである。
「完成したら、自分たちのオフィスにお客様をお招きしたらどうだろう」というアイデアも生まれた。商材を並べて見せるショールームではなく、社員の働く場そのものを見ていただき、イベントにしてしまおうと。第1回の開催にこぎ着けたのは、大赤字を出した月から僅か4ヵ月後。結果、700名を超えるお客様にご来社いただくことができた。
暗黙のルール
「もっと、目的に合わせた新たな商品を探そう」
社員はみるみるうちに能動的に変わっていった。これまでプレゼンなんてやったことのない営業パーソンがチームを組み、商材を探し出し、社内コンテストを実施。上位に入ったチームが提案した商品を、売っていこう」と決めた。さらに、「その商品をうちのオフィスに実装しよう」と、自分たちが使って納得したものをお客様に提案する。そんな、暗黙のルールができあがった。
イベントの経験で見えたのは、お客様の顔。「これって、どんな風になっているのですか?」「このアイデア面白いですね」。営業社員が説明するより先にお客様が気づくという想定外な流れも大きな成果だった。こうして何度かイベントを繰り返すうちに、お客様を当社へお招きするという営業プロセスが、定着していったのである。
「ベテランの営業からすれば、すべてが初体験。当然、アレルギー反応もありました。でも、自分たちが実践していることを発信すると、お客様から良くも悪くも反応をいただけた。これが、固定概念を捨て、無理なく新しい価値観を受け入れられることにつながったと思います」
直系販社の合併で一つになる
販社強化の改革をスタートさせて5年。従来のものを変革し、新しい概念を生み出すことに成功した岩田社長は、北海道から九州まで、経営スタイルもDNAもまるで違う直系販社4社を合併し、東京で成し遂げたスタイルを全国に押し広げていこうと考えた。2013年、ここでウチダシステムズの誕生となるのである。
一つになったところで、「もっと科学的に営業スキルを高めたい」と、始めたのが需要創造訓練。文字通り、需要をつくり出すのだが、お客様の真のニーズを引き出すのは簡単ではない。そこで、お客様のことを研究し、お困りごとの仮説をたてて検証するという一連の動きを社員同士でつくっていく。これが、需要創造訓練だ。
仮説をたてれば、正しいとか、間違ってるとか、答えをいただける。「正しいよ」と言われれば、解決策を考えましょうとなり、「そうじゃないよ」と言われれば、「では、何にお困りですか?」と引き出せる。お客様はありたい姿に向かっているのに、足りていないとすれば、それが経営課題としてあげられ、解決の提案につながる。逆から入っていく手法で、お客様との向き合い方も変えていったのである。
需要創造訓練で思考回路を変える
「需要創造の訓練をやり続けたのは、顧客認知を変えるためでした。先ほども触れたように、お客様にオフィス家具屋だと思われていたら、その範囲でのご相談しかいただけません。ビジネスパートナーとして認めてもらうために、何度も、何度も、訓練を繰り返し、継続することで、思考回路を変化させていったのです」
オフィスにお客様をお招きする営業プロセス、商材探しの社内コンテスト、自分たちで実践したものを提案するルール、お客様の課題を引き出す需要創造訓練。これらの取り組みを今度は、全国の支社に定着、浸透させていく必要があった。何故なら、社員からすると、合併で社名を変更した以外は景色が変わっていないと見えるかもしれないから。岩田社長はそれが一番のリスクだと感じていた。さらに、地方の社員たちは、リストラされるのではという不安も抱えていた。
「九州、大阪、北海道と出張しては1週間滞在し、毎日のように食事会を開催しながら社員と膝を突き合わせて話し合いました。『雇用は必ず守る』と約束した上で、東京で成功した取り組みを導入し、各拠点との融合を図れるように持っていったのです」
北海道支社で需要創造訓練をはじめて実施した時、皆、目からウロコだった。「こういうことがやりたかった」と、ボロボロと泣きながら感激する社員もいた。会社の外形が変わったのではなく、いい意味で身も心も変わっていく合併であることを見せるためにも、岩田社長自ら陣頭指揮をとり全国を回った。こうして、現在では全国の支社が合同でプロジェクトを推進するようになり、その光景は、ウチダシステムズの風物詩となっている。
(第2話:「教え合う文化が、若手社員を育てる」に続く)
~オフィス、それは理念を実現する場~
株式会社ウチダシステムズ
取材ご協力
代表取締役社長 岩田 正晴様
取材
東海バネ工業 ばね探訪編集部(文/EP 松井 写真/EP 小川 )