第1話
【世界に一つしかない工作機械を作り続けて】安田工業株式会社様
世界に一つしかない工作機械を作り続ける安田工業株式会社。工作機械業界といえば、世界最大の高速回転に挑む超ハイテクの世界が思い浮かぶだろう。彼らの戦いは「精度」である。コンピュータがはじき出す数字や記号、一見、アナログとは無縁のように思えるが、
岡山県にある工作機械メーカーの工場をのぞくと、リズミカルな動きで、金属の表面を削っている職人たちが、目に飛び込んでくる。
世界に一つしかない工作機械を作り続けて
工作機械業界といえば、世界最大の高速回転に挑む
超ハイテクの世界が思い浮かぶだろう。
彼らの戦いは「精度」である。
コンピュータがはじき出す数字や記号、
一見、アナログとは無縁のように思えるが、
岡山県にある工作機械メーカーの工場をのぞくと、
リズミカルな動きで、金属の表面を削っている職人たちが、
目に飛び込んでくる。
手にしているのは、半世紀に渡り使い込まれた
ハンドスクレーバー「キサゲ」、
この1本で、見事な曲線模様をつくりあげ、
極めて高い精度を生み出す。
そんなもの作りをしているのは安田工業、
テクノロジーと人間の融合で、
世界に一つとない工作機械を生み出している安田工業を訪ねた。
同業者にも、すべてを見せる!
ここ、安田工業(以下安田)には毎日のように、見学者が訪れる。
地元の一般客から同業者まで、すべてを公開している。
同業者に?と思うかも知れないが、約200社も存在する工作機械業界は、これまで仕様を共産し、同じ方向性でものづくりをしてきた。が、ここ数年、航空機用とか、金型向けであるとか、生き残りをかけて、各社それぞれがターゲットを絞っている。
業種が変われば、つくるものも違う。同業者は競合するのではなく、共存共栄。だから、誰が見学に来ようとも、すべてをオープンにしている。
「工場、製品を見ていただき、そして会社全体を見ていただいて、機械を決めていただくという方針が昔からあります。工場に足を運んでいただかないとわかっていただけない。カタログでは伝えられないんですね」
技術を統括する立場にいる角田部長は、こう切り出す。
そんな安田は1929年、創業者・安田信次郎により大阪で産声をあげた。社名は現在の前身である「ストロング商会」。
創業同年、我が国初の自動車、船舶向けのシリンダーのボーリング加工・ピストン製造に着手、これが工作機械の道の始まりだった。
「ボーリングした穴を使うと、だんだん底が摩耗してくるのですが、そうすると真円度が悪くなり、もう一度やり直すのです。つまり、再生する機械をつくっていました」
44年に岡山に移転、それからずっと、この地に根をおろしている。
創業以来、一貫して精密加工技術の開発に取り組んできた安田は、64年に、横精密中ぐりフライス盤「ジグマスター」の開発で本格的に工作機械分野に参入した。
「私が入社した1980年当時は100人規模くらいになっていましたね。
64年にジグマスター(横精密中ぐりフライス盤)をつくっているんですが、これはマニュアル機で、手で操作する機械なのです。」
ちょうど、日本の工作機械をつくった初期のころだが、ジグマスターの技術開発が実を結び、70年に創業者は勲五等双光旭日章を受賞した。これがきっかけで、業界内からも『工作機械の安田』と認められるようになったのである。
66年にマシニングセンター(プレシジョンセンター)、68年に「YMC180 アクアツアー」を開発、この辺が、マシニングセンターのはしりだ。
「76年に「プレシジョンセンター・YBM90N」の中型のマシニングセンターを開発したのですが、このコンストラクションはいまだに、生きています。要素技術的にもです。」
こうした話は、さすがに伝統技術を守り続けてきた安田ならではの、エピソードである。
ちょっと、具体的に工作機械についてふれてみよう。
工作機械とは、部品や金型を加工する機械のことを指す。旋盤、歯切り盤、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、研削盤などがあり、加工する対象物か、刃のどちらかを回転させ、両者の相対位置を制御することで、金属や木材やプラスティックなどの素材を目的の形状に加工する。
あらゆる製品の製造工程において工作機械は必須のものであり、
その製品を生み出すという意味において「マザーマシン:母なる機械」と呼ばれている
産業革命の推進力となった蒸気機関や紡績機械を製造する必要性から、70 年代にイギリスで発明されたものが最初といわれ、18 世紀末以降、欧米各国で特色ある工作機械が開発されるようになった。自動加工技術の開発により同一部品の大量生産が可能となり、さらにNC(数値制御)工作機械の出現により異品種大量生産の時代に突入。それまで必要不可欠だった熟練工の仕事を、ある程度機械がこなすようになったことから、70年代以降、工作機械の生産は大きく伸びた。
現在は、相対位置の数値制御を自動化することで、生産効率を高めた NC加工を行う工作機械が主流となっている。
縦型と横型はどう違う?
工作機械には、縦型と横型がある。
最初に普及したのは縦型のフライス盤、ここから自動化がすすみ、使い慣れていた縦型のマシニングセンターの普及は早かった。
一方、横型は量産に向いている。横型はテーブルを回せば4側面の加工が可能だが、縦型だと1面しか加工で出来ない。
量産とか、生産性を高めたラインということで、横型は見直されている。
「縦も横も、上下する軸があります。この軸は一番難しいんです。平面に動く軸はわりと扱いやすい。ものがまっすぐ動く方向は、全部で6方向考えられるんですが、5方向は拘束されなければいけない。そう考えると、平面にのっているものは簡単ですが、上下する場合の方向を制御するのは難しいんです。
ただ、縦型も横型も、上下軸をいかに制御しやすいコンストラクションにするかというのが、一番のポイントです」
自動化に向くのは横型だ。
横型は、三軸のZXYに対して、ワークは旋回するようなイメージだ。だから、周辺から様々な加工ができるようになる。さらに、もう1軸つけて、上からも加工ができる。
一つの機械で、多くの仕事をこなすというわけだ。
加工が簡単にできてしまうということは、手のプログラミングでは追いつかない。コンピュータ頼みとなり、3次元の登場だ。
「完全に自動化、無人化の時代ですね」
「3軸に対して、旋回軸が2つつくと、精度を出すのは極めて難しくなるのですが、やり甲斐はあります。
5軸の機械を出したのは83年頃で、横型のマシニングセンターをベースに、もう1軸追加した専用的な5軸の機械を開発しました。ただ、その頃、5軸の機械を使えるお客さんはほんの一部、限られているところしかなかったんです。ですから、専用機ですね」
こうして、縦型、横型を作り続けてきたわけだが、
その安田がこだわり続けているのは何か・・・
それは単品勝負である。
「たくさんのものはつくれません。作れる量が限られていますから。
顧客のターゲットも自然にしぼられてきています」
大型の機械は完全な受注生産、機種により受注生産となるのだが、縦型の比較的小さいものであっても、何らかのかたちで特殊なものが入る。
こうした機械は、製造品のノウハウの固まりともいえるだろう。
だからこそ、改善に次ぐ改善の繰り返しで進化をとげ、
日本の会社は世界から認められるようになったのである。
外貨を稼ぐ、日本の誇れる技術として国際競争力維持を握る一つが、工作機械の発展であるといっても過言ではない。
そんな成長を遂げてきたなか、業界がしのぎを削っているのは、
「精度」である。
第2話では、その精度についてふれてみる。
つづく・・・
~世界最高峰の超高精度マザーマシンの開発~
安田工業株式会社
http://www.yasda.co.jp/index.htm
所在地:〒719-0303 岡山県浅口郡里庄町浜中1160
TEL:0865-64-2511(代) FAX:0865-64-4535
取材協力 安田工業株式会社
技術部長 角田庸人様
技術部 機械設計 1課 技師 伏見元由様