ばね探訪 - 東海バネのばね達が活躍するモノづくりの現場をレポート

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東海バネ工業株式会社

宇宙の海原へ、夢を乗せて | 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 様

第1話

宇宙の海原へ、夢を乗せて

年に一つと出ない製品に、命を吹き込む。
体験することができない宇宙という世界に向け、同じ品質のものを、作り続ける。
探求心、創造力、ものづくりへの誇り、
その力は、世界に一つしかない部品を誕生させた。
ものづくりに強い中小企業の底力とは、どこにあるのか。
JAXAの取材を通して、中小企業の本当の強さを探り当ててみた。

7年間60億キロ・・・・小惑星「イトカワ」の物質を地球に持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」の旅のドラマは、2005年11月20日、わずか30分ではあったが、地球と月以外の天体に着陸し、再び離陸するという人類史上初の快挙に、多くの人々が熱狂した。
このプロジェクトを成功させたのは、宇宙航空研究開発機構JAXA。ドラマの背景には、JAXAを媒介に、「ものづくり」に挑んだ中小企業の織りなすストーリーがある。だから、人は、魂をゆさぶられ、その成功に感動した。
はやぶさプロジェクトをサポートするチームは、全体で118機関。その約4分の1を占めるのが中小企業で、探査機の可動部分の部品に用いる潤滑剤の製造や、サンプル採取装置の試作、弾丸 射出装置 ( イジェクター ) 用金属加工部品の製造、探査機の中・高利得アン テナの開発・製造など、世界に一つしかない部品を生み出した。東海バネ工業も、「はやぶさ」の 射出装置に付帯するバネで参画した1社である。
JAXAの産業連携センターでグループ長を務める三保和之氏は、そうした企業の強みをこう、表現する。

「我々の要求は高く、これまでの既存の商品をご提供いただくというわけにはいきません。しかも数個しか必要としないことから、ビジネスとしては成り立ちにくい。それでも、少数のものを高い技術で器用につくってくださる。海外で市場を席巻している商品をつくる企業とは対極にあり、ビジネスとしては極めて厳しいかもしれませんが、日本の企業にしかできないことだと思っています。人工衛星は基本、1個、ロケットも年数機です。その数個の製品のために人をかけて、設備投資をし、目に見えない負担をいとわずにやっていただけるのは、ありがたいですね。ロケットや人工衛星が飛ぶのは、こうした企業の方々に支えられているからです」

日本のロケットは信用のかたまり

一度は納品にこぎつけることができたとしても、人の問題、経営的なこと、様々な理由で二回目に繋がらない場合もあるという。大事なのは、同じ品質・精度の商品をつくり続けることができるかどうか。これが、JAXAの求める、宇宙産業に必要な条件である。
「研究を目的とするものでしたら、データをとるための製品だけができればいいのですが、ロケットは何度も、あげないといけません。毎回、同じ品質・精度のものを、期限を守ってつくってもらえる。これが一番、重要なことなんです。このことが、日本のロケットの信用につながっています。バネ一つだけでも、ロケットは落ちてしまいます。落ちた瞬間に、日本の国の信用がなくなってしまいますから」
宇宙ビジネスというと、あくなき夢と潤沢な資金が集まっているように見えるが、日本は、儲かるビジネスになっていない。商品化のサイクルが短い現代のなかで、商品化するにはあまりにも時間がかかりすぎ、企業の体力がないと続けていくことはできない。アメリカでは、数千万円という高額な宇宙旅行がビジネスとなっており、若くして辞めた宇宙飛行士が、そうした会社にヘッドハンティングされているというが、日本は厳しい環境のなかでものをつくる企業が、ロケットへと情熱を注いでいる。

「必要なモノを、必要な時に、必要なだけ」が叫ばれる合理化の波のなかで・・・

「人と同じ事をやっていても成功はしない」と、よくいわれるが、「はやぶさ」にかかわった中小企業をつきつめていくと、まさに、他がやらないこと、やれないことに特化している。薬に例えるならば、汎用性の高い標準品をつくっている大手系列などは、薬局に並ぶ市販薬を柱とし、専用性に優れたものづくりに強い中小企業は、調合した処方薬を提供しているようなものである。
つまり、製品開発において、「困った・・こんなものをつくれるところはないだろうか・・・」と頭を抱えているところに対して、ピンポイントで問題解決をするのが強みだ。
市販薬と、処方薬では、生産体制はどうかわってくるのか。市販薬を提供するならば、大量生産を主体とした設備と、計画的な材料の調達、ラインを管理する人材が必要で、安定的な生産の目処がたつ。一方、処方薬となれば、その人に合わせた薬を調合するだけに、あらゆるものに対応できる薬を用意しておかなければならず(材料在庫)、当然、症状を分析し、それに合わせた薬を調合する人(人材)と調合するための器具(設備)も必要である。
しかし、前述したように、製品開発において難渋した段階で相談がくるだけに、シャッターを開けなければ、どんな注文が舞い込んでくるのか、見通しを立てることはできない。現実的には、いつ、どんな依頼がくるのかわからない資材を在庫しておくのは、倉庫に資金を眠らせているようなもので、売れなければ資金のムダとなり経営を圧迫してしまう。人材も、「あの職人にしかできない・・・」といった世代交代を迎えた製造業の技術の伝承が、大きな課題だ。
この比較から理解できるように、いつ、どんな依頼にも対応できる材料在庫と設備、問題を解決する技術の提供、この体制がなければ、世の中に二つと無い製品を生み出すことはできない。
「必要なモノを、必要な時に、必要なだけ」を生産・調達するというものづくりの合理化が叫ばれているなかで、ここが、大きく違うところであり、これが、本当の強さではないだろうか。

宇宙から地上へ、地上から宇宙へ

宇宙関係のものづくりで大きな利益をあげることは難しく、参画した中小企業は、それだけで事業が成り立っているわけではないことは述べたが、宇宙のために生まれた製品を、地上向けに改良することで、ビジネスチャンスを広げるオープンラボという試みがある。ユーザーは、JAXAから一般消費者へと変わる。
「国際宇宙ステーションや人工衛星、ロケットなどに使われている技術は、想像力や熱意、ベンチャースピリッツによって新たに生み出されたものばかりです。JAXAでは、そうした技術をやアイディアをもっと、私たちの身近なところでいかせる製品やサービスを生み出したいと考えています」
JAXAとの協働プロジェクトで、すでに、宇宙の生活から製品が誕生したものもある。例えば、消臭下着のMXP。宇宙下着として消臭・抗菌機能に優れた製品で、地上向けに、快適下着として売り出されている。
現在、他にも協働プロジェクトは進行中で、星の数ほどビジネスチャンスはあると、JAXAでは期待を寄せている。
逆のケースもある。すでに地上で使われている技術で、宇宙に持っていけそうなものはないか・・・。研究者・技術者にとって、宇宙は壮大なる実験場。地上ではありえない過酷な特殊環境に適応できたとき、想像以上の価値ある技術に生まれ変わる。JAXAは、その実験場を提供し、最先端技術を地上に還元することで豊かな生活の向上を描いている。
そのためにも、JAXAでは、日本の中小企業を集めた交流の場作りに積極的だ。というのも、JAXAから直接発注しているケースは少なく、「はやぶさ」でいえば、プロジェクトのメーカーである大企業が、ものづくりに強い中小企業へ発注していることから、直接、中小企業の顔が見えているわけではない。だからこそ、自分たちが積極的にコミュニケーションをとることで、可能性ある技術を掘り起こそうとしている。
「ものをつくっている方々は謙虚で、仕事に誇りを持っているところが素敵だな、と思います。そういう方々とお会いする機会をつくっていますが、つくっている人の顔がわかっているだけで、安心しますね」(田辺様)

ものをつくるということは、人をつくり、国をつくることにある。資源に恵まれない日本が、経済大国になったのも、ものづくりに長けていたおかげだ。これからは、JAXAが媒介となって、宇宙から地上へ、地上から宇宙へと、ものづくりに強い中小企業の道が開かれることに、期待したい。
いつか、種子島から有人ロケットが打ち上げられる日を夢に…

取材ご協力:宇宙航空研究開発機構(JAXA)

産業連携センター 成果活用促進グループ
グループ長 三保 和之 様
主任 田辺 久美子 様