第3話
世界最高水準を、組み立てる
本体の組み立てから、建設、メンテナンスまで
設計・技術者から生まれた新たな技術は、一部を除き、全てのパーツが高砂製作所内で部品として製造されている。その一つひとつのパーツを組み立て、製品として出荷するまでの工程を担うのはガスタービン組立工場。難易度の高い、細かい作業は、技術者の手によって寸分の狂いもなく組み立てられる。そんな熟練の技がものをいう現場で活躍する齋藤雅斗さんは、本体の組み立てから、建設、メンテナンス出張までをこなす。入社12年目となった今、安全に電力を供給するための責任と夢を胸に、世界最高水準の製品を組み立てている。
齋藤さん 私はこの高砂市が地元なのですが、高校の社会科見学は高砂製作所でした。父親は神戸製鋼、兄は川崎重工という家の環境もあって、ものづくりを目にしたその時から「将来はここでガスタービンをつくりたい」と夢を持っていました。この道に進むのは自然の流れだったと思います。
これまで、様々な機種の組み立てを合わせて16機程度経験してきました。工場内での本体の組み立ては、機種によって違いますが、2~3人の3グループで1ヵ月ほどの期間を要します。一通り覚えた頃に新機種が登場しますから、常にスキルアップが求められます。作業範囲もより幅広く、難易度もより高くなってきていますから。
難しいのは、機械で加工しきれないところです。最後は自分のスキル、手で仕上げていきます。そうした作業は、厳しい認定試験を取得した人に委ねられますから、先輩の姿を見てやり方を学びながら、皆、技能検定に挑戦します。自分も現在、16個の資格を保有しています。
緊迫した現場のなかで
ほんの些細な傷でも大事故を引き起こしかねないことから、組み立ての前後では細心の注意が払われる。高効率を出すための細かい作業の難易度は高いが、世界最高のガスタービンをつくっている誇りが、支えになっている。
齋藤さん 組み立ての現場は、ミス一つ許されませんから、精神的にも、技術的にもしんどいことが多いです。1ミリ単位ではなく、100分の1ミリの世界になってきていますから。0.05ミリとかの調整で細かい手作業になると、現場は緊迫した状態になります。
そんななかで頑張っている後輩たちの気持ちがわかるので、意識的に和む雰囲気をつくったり。自分もまだ仕事に慣れない頃、場を楽しくしてくれた先輩に、すごく救われました。今、年齢的にも中間の立場なので、それが自分の役割かなと思っています。その先輩に、「もう、お前に教えることはない」と言われた時は、認めてもらえた気がして、本当に嬉しかった。自分が学んで良かったことは、後輩にも伝えていきたいですね。
建設現場への出張が、転機となった
工場内での組み立て作業をメインとしながら、齋藤さんにとっては、現場での建設、メンテナンスも重要な仕事。出張先では、多様な人との出会いや、見たこともない機種との出会いがある。そんな齋藤さんに転機が訪れたのは、建設現場でのガスタービン本体の据え付けをやりとげた時だった。
齋藤さん 自分のなかで変化を感じたのは、建設で出張に行った時でした。建設は、現場で機械を据え付けするのですが、建設の要素が入ってくるので、工場内の組み立てとはまったく違う作業なのです。1 台目の建設時には現場に行く先輩に同行して、注意点など色々と教えてもらい、2台目の時には先輩にサポートしてもらいながら、自分がメインでガスタービン本体の据え付けを完成させました。問題なく運転することができ、お客様に引き渡せた時、それまでにない大きな達成感を感じました。その時の仕事が認められ、そこから国内外の現場へ一人で行くようになったのですが、様々な人との出会いがあることと、自分に足りない技術や知識に気づかされるという面も多くあります。
それは、工場で普段扱わない機種をメンテナンスすることがあるからです。古い機種ほど苦労します。出張前に経験者のレクチャーを受けたり、経験者の困りごとをまとめた資料で勉強するのですが、実際、現場での作業はイメージ通りにいかないこともあります。ドライバーでネジをしめたり、スパナでボルトを締めたりといった手先の作業は組み立ての工程でもよくやりますが、メンテナンスの分解・組立作業には決まった手順があり機種によって異なるので、多種多様なことも学ばなくてはいけません。現地の作業員さんにも教えてもらいながら覚えましたが、随分と苦労しました。そうした経験不足をきっかけに、新機種だけではなく、古い機種にも対応できるスキルを持ちたいと思えるようになりました。
また、出張先では多くの人との出会いがあります。組立課出身の方が現地の所長になっていることもあり、そんな時は一緒に昼食をとりながらアドバイスをもらいます。時には、夜の食事をしながら、経験談を聞かせてもらうことも。今はコロナ禍で、そうした貴重な時間がもてないのが残念です。
ものづくりの歴史と進化を感じながら
今後の目標は?と伺うと、「大きな目標を持つより、目の前にある課題をしっかりクリアしていくことを大事にしていきたい」と語る齋藤さん。それは、新機種の精度があがれば、当然、組み立ての精度もあがり、厳しさが求められるから。高効率を目指せば目指すほど、組み立てでは、効率を出すための細かい手作業が重要になる。そこには、テクニカルなことだけではなく、ガスタービンの歴史を知ることが大切になってくる。
齋藤さん 最新機種はもちろん高度なものですが、20〜30年前のガスタービンもメンテナンス次第では今の機種と同じような性能を持っているといえます。実際、現場で古い機種を目にしたとき、当時の技術の高さに感動しました。発電効率は違いますが、頑丈さや耐久性といったものは、今も昔も変わりません。建設現場は、ガスタービンの歴史を自分で体験できる機会でもあります。
建設現場で「技と精神で築かれた歴史」を知り、工場内で「新機種の目覚ましい進化」を感じながら、この仕事に出会えてよかった、と思っています。自分が携わった製品が、世の中に貢献していると思うと「やりがい」がありますし、世界最高レベルのガスタービンをつくっている、という「誇り」が持てます。
日本の高度な技術を、世界に届けるために、これからも一歩一歩、前進していきます。
(2021年10月取材)
日本の「ものづくり」魂が宿る 巨大ガスタービン工場
三菱重工業株式会社 高砂製作所
取材ご協力
三菱重工業株式会社 高砂製作所
組立課 ガスタービン係 齋藤雅斗 様
取材
東海バネ工業 ばね探訪編集部(文/EP 松井 )