ばね探訪 - 東海バネのばね達が活躍するモノづくりの現場をレポート

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あんなこんなニュース

東海バネ工業株式会社

 | 三菱重工業株式会社 高砂製作所 様

第1話

日本の「ものづくり」魂が宿る 巨大ガスタービン工場

1962年、大容量発電機器を中心とする、回転機械専門工場として操業した高砂製作所。火力発電所に欠かせない大型ガスタービンの開発に取り組み、今や、米国のGEやドイツのシーメンスと、世界の頂点で肩を並べる。日本国内はもちろん、世界の暮らしや産業への電力供給を支え続けている。2025年に向けて水素だけを燃焼させるガスタービンの実用化を目指すなか、2018年に天然ガスに30%の水素を混合して燃焼させる実機適用試験に成功した。このガスタービンを生み出しているのが高砂製作所であり、世界で唯一、研究・開発から設計、製造、実証までの一貫体制を整えている。長さ16メートル近くある巨大ガスタービンが鎮座する工場内は、その迫力の対局にある、緻密、丁寧、繊細さが詰め込まれていた。耳慣れない専門用語が飛び交うなかではあるが、見学・取材を通して感じたことを、少しでもお伝えできれば幸いである。

ここが製造拠点

瀬戸内海の美景を魅せる山陽電鉄は、神戸から姫路までをつなぐ鉄道。その沿線にある荒井駅に降り立ち、5分ほど南に下ると、高砂製作所が視界に飛び込んでくる。ここは東京ドーム22個分に相当する広大な敷地を持ち、4,000名近い社員がそれぞれの業務に取り組んでいる。

その主力製品は、コンバインドサイクル発電用ガスタービン(GT)。コンバインドサイクル発電とは、燃料を燃やして発生させた高温ガスの圧力でガスタービンを回して発電させるのだが、その排ガスの余熱を再利用し別の蒸気タービンを回して発電する二重の発電方式のこと。この方法を用いることにより、三菱重工グループの最新鋭J形ガスタービンを適用したプラントの発電効率は、それまでの従来型石炭焚き火力発電方式より20%向上し、世界最高水準の64%以上を達成。CO2排出量も65%ほどの削減を可能とした。

現在、高砂製作所では、各パーツの製造から、加工、組み立て、出荷までを担い、大型ガスタービンが瀬戸内海から世界中へ送り出されていく。

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巨大なガスタービンが生み出される、街のような広大な敷地

熱効率1%向上の戦い

大型ガスタービン開発の鍵は、いかに燃焼温度を上げ、熱効率を高めるか。それには燃焼ガスの温度を上げることが不可欠で、開発の歴史を見ても懸命な試みが伝わってくる。

1963年の700℃級のガスタービンから始まって、1,250℃級、1,350℃級、1,500℃級、1,600℃級、そして2020年に1,650℃級を生み出すまで、およそ60年にわたって温度の向上を実現させている。この温度とは、タービン入口温度をさす。そこを高めれば、高圧ガスの出力が上がり、タービンを回転させるエネルギーも上がり、熱効率が上がるというわけだ。

その熱効率は、1,600℃級で61%以上、1,650℃級ではJAC形ガスタービンの導入で、世界最高クラスの64%に達した。次なる挑戦は1,700℃級の開発。そこで目指す熱効率は65%以上。まさに1%の戦いだという。

燃焼ガス温度の上昇には多くの課題が伴う。1,000℃を超す高温のため、開発すべき技術は多岐にわたり、難易度が高い。例えばタービンの翼が高温に耐えられるようにするサーマルバリアコーティングと呼ばれる耐熱コーティングや、翼内部の冷却効率をあげる設計などを加えなければならない。この翼を守る力、ここに難易度の高い要素技術が必要となってくる。

ガスタービンの原理

ここで、全体の構造に触れてみる。ガスタービンとは、天然ガスなどの燃料を燃やして動力を得るエンジンのことで、大量の空気を圧縮して高圧の空気をつくる「圧縮機」、その高圧の空気と燃料を燃焼させる「燃焼器」、高温高圧になった燃焼ガスを使って回転する「タービン」と、主に3つで構成されている。

ガスタービンの原理は、空気がガスタービンの入口から入り、圧縮機にて空気圧が上昇し、燃焼器へと流れていく。この圧縮された空気が燃料と混ざり合い点火され、燃焼ガスが生み出される。こうして発電された電力が、地域へ届けられるという仕組みだ。

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迫力と繊細が入り交じる

巨大ガスタービンの組立工場だけに迫力のある音や光景を想像していたが、中へ入ってみると、ガスタービンの造形は機能美に溢れた工芸品のようで、丁寧な作業が見て取れた。

聞けば、最⼤約120トンのロータと静⽌部品とのクリアランスを0.01 ㎜の精度で組み⽴てていくという。また、小さなボルト1つでもタービンの中に落としてしまえば、翼が全部吹っ飛ぶ大事故につながることから、異物が混入しないよう円環服を着用し、持ち込み物の管理が徹底されている。

「ガスタービン組立工場は、高品質の製品を効率良く、短納期で生産するために2008年10月より稼働を開始しました。工場内は物流センター、車室結合エリア、総合組み立てエリアで構成され、工場専用の物流センターは、必要な時に必要なものをタイムリーに供給できます。組み立てを行う前に、まず、車室だけをすべて結合する。専用の車室結合エリアを設けることにより、サイクルタイムの25%削減を実現しました。そしてここのエリアの横には、平行して結合組立を行えるように3つのステーションが用意されています」(案内者:組立課主任 桑原 淳一さん)

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翼一枚に込める思い

そしてタービン。大きさに圧倒されていると、翼の細部まで考えられている技術を見逃してしまいそうになるが、その一枚一枚の翼からものづくりへの魂が伝わってくる。翼を頑強にするための耐熱材料、冷却、コーティング加工といった要素技術は重要で、飽くなき研究は今でも続けられている。

そのタービンには、動翼と静翼がある。高温高圧ガスの流れを受け止めて回転する動翼(ブレード)と、固定されて空気を整流する静翼(ヴェーン)からなり、両方をあわせて1つの段に。ガスが動翼と静翼を交互に流れることにより軸が回転し、タービンはその回転エネルギーを動力に変換していく。1枚の動翼で生み出されるエネルギーは2.4メガワット。F1マシンに例えると、5台分くらいの馬力を担っているという。

未来をつくる第二T地点

高砂製作所内に新設された実証設備複合サイクル発電所。通称、「第二T地点」。冒頭で紹介した世界初の1,650℃級のガスタービンJAC形の長期実証に向け、2020年7月に運転を開始。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた最新鋭のガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)が設置されている。

第二T 地点は冷暖房などで多くの電力が必要とされる夏と冬には地域へ電力を供給し、電力使用量が少ない春と秋には開発している技術の検証試験のため使用されているという。

「第二T地点の主な目的は、新規開発のガスタービンの検証です。より効率の良いガスタービンをつくるのが当社のミッションです。試験は、数十時間とか、数百時間といった短期だけではなく、数ヶ月単位で長期の運転を行い、製品の信頼性を実証しています。

ガスタービンの開発で一番コアなのが燃焼器で、検証も燃焼器の部分が多いのです。例えば、部品を冷やす空気の通り道や燃料ガスの出る孔の場所を変えたらどうなるのか。計算上でも出ますが、まずはやってみる。検証の結果が出てくる度に、『今回はうまくいった』『思っていたのと違う結果になった』と設計者は一喜一憂しながら、次の検証を考えていきます。すぐに実証発電設備で検証できる第二T地点の存在が、高い製品信頼性を確立しています」(案内者:高サ国工事G主任チーム統括 青木 嶺典さん)

ナショナルプロジェクト

高砂製作所を見学させていただくと、ガスタービンの開発は、日本を背負った研究開発であることを感じる。それを裏付ける話が、ガスタービンの歴史のなかにあった。

さかのぼること1970年代、欧米では国家戦略として高効率ガスタービンの開発が推進されていた。国内でいち早く着手したのは三菱重工で、すでに「700℃級ガスタービン」を成功させていたが、まだ、マーケットは小さく多くは輸入に頼っていた。そんななか、国を挙げて大型ガスタービンの開発に動きだしたのは、オイルショックの経験で1978年に開始された「ムーンライト計画」。

同社をはじめ、その計画に集結した数十社で、ガスタービンに関する技術開発が進められた。その後は、「ニューサンシャイン計画」というものに引き継がれ、さらなる性能向上で高効率ガスタービンの要素技術が強化されていった。欧米勢がリードするなか、三菱重工は世界最高性能の大型ガスタービンを次々と開発させたのも、こうしたナショナルプロジェクトの存在があったから。そこで培った要素技術が後に、大輪の花を咲かせた。ここに、日本のものづくりへの熱い思いと開発への執念を感じる。

“Think Globally, Act Locally”

高砂製作所の強みは、約100万平米におよぶ敷地内に研究・開発、設計、製造、実証の施設をおき、一貫体制で生産が行われていること。一つのエリアのなかにすべてを集約しているのは世界を見渡しても、高砂製作所だけと賞賛されている。そこには、地域と製作所と人の強いつながり、連携があるからこそ。

“Think Globally, Act Locally”(地球規模で考え、足元から行動せよ)は、経営の神様ピーター・ドラッカーの名言だが、この地から世界に誇るものづくりを発信させた高砂製作所の人たちの姿に、その言葉が重なりあう。
(2021年10月取材)

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日本の「ものづくり」魂が宿る 巨大ガスタービン工場

三菱重工業株式会社 高砂製作所
取材ご協力

三菱重工業株式会社 高砂製作所

組立課 主任 桑原淳一 様
高サ国工事G主任チーム統括 青木嶺典 様
高砂調達マネジメント二課  興津枝里子 様

取材

東海バネ工業 ばね探訪編集部(文/EP 松井 )