ばね探訪 - 東海バネのばね達が活躍するモノづくりの現場をレポート

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東海バネ工業株式会社

126年の鉄路 伝統を受け継ぐ12人のSL組 | 東日本旅客鉄道株式会社 大宮総合車両センター 様

第3話

「伝統」と「進化」の融合

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現在、SL班は、まさに技術伝承の真っ只中。毎日のように入場してくる電車に比べて、SLはたったの数両。同じ部品に触れるチャンスは、多くても1年に1回か2回しかない。頻度が極端に少ないだけに、中島班長は、若い人たちが、積極的に手を出せる環境づくりに尽力している。新しいやり方も、渡邊さん、我妻さんが中心となって取り組み、「伝統」と「進化」の融合を実践中だ。 例えば、部品の再利用が不可能な場合は、新たにつくることを考えなければならない。以前、C61のばねが、基準値を超えてしまい、折れるかも知れないような危険な状況にあった。新たな部品の製作が必要となり、我妻が班長に相談すると「やってみろ」と、新規製作のゴーサインが出た。

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「図面を引き、ばねメーカー様に5~6社あたってみたのですが、『胴締めは無理、溶接ならできる』という会社がほとんどでした。しかし、荷重がかかると溶接は割れてしまうので、昔ながらの焼き嵌めでなければならず、困っていたのです。そんな時、東海バネ工業様の存在を知り、連絡をしたところ、『できます』とその日のうちに回答をいただきました。2ヶ月探しまわった苦労が、たった1本の電話で解決したのです。後で東海バネ工業の小谷様に、ばねの使用方法によって、耐久性が異なることも教えてもらい、ばねの使い回しの見方も変わりました」(我妻さん)

曲げを変更するなど、色々な仕様変更を相談しながら進め、理想の部品が完成した。昔は、国鉄の工場でつくっていたことから、なにかし
ら、国鉄のレシピがあったはず。しかし、材質が昔より良質になった分、既存のレシピでは対応できないケースも出て来ていると我妻さんは語
る。そうした部分を、若手2人が担い、質の向上面で「進化」させているのである。

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生きているからこそ、明日はわからない

「自分たちが学ばなければ、師匠や先輩たちに失礼。好きこそものの上手なれですから、裏切ってはいけないんです。師匠は、今でも、先を見据えて勉強されている。熟知しているのに、さらに深めていく姿は正直、超えようがないんです。だから見よう見まねでいきますが、昔の先輩たちの日誌を見てヒントを得たり、先輩の背中を見て、吸収したものを自分のものにする。世代交代の波に乗り遅れないようにしなければ、SLの火が消えてしまうのです」(渡邊さん)

電車は、電源を落として、立ち上げても同じように起動する再現性があるが、SLにはそれがない。「昨日まで調子良かったのに・・・」というのは日常茶飯事。石炭のくべ方でも変わるし、石炭の質でも燃焼効率が変わる。そこが、こだわりの部分。精度を上げて組み上げ、今日はうまくいっても、明日はわからない。調整が完了しても、まだその先に調整シロが残っている。まさにSLは生きているという証だ。

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火を焚くと、生き物になる

「SLって火を焚かなければ、ただの鉄の塊なんです。でも、ひとたび火を焚くと、鉄をまとった生き物になる。一両一両、全部違う。人間でいえば、心臓が強い人、内臓が強い人、足腰が強い人がいるのと同じ。生き物ですから」

長年、現場に携わってきた山口憲三さんは、SLをそう表現する。一番最後に復元した盛岡のC58 239は、ボイラー圧力も一番大きく、スピードも速い。他社の同じ型式と比較しても別物。すべてに個性がある。

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SLの持つ個性を、12人が持っている技術で、最良の状態に仕上げていく。試行錯誤、手間ひま、悩み、葛藤、それがすべてが圧力となり、仕事というピストンを押して前進していくのである。

Let’s start my handsome boy! 出発進行だ!
※「Let’s start my handsome boy!」
SL発祥の地イギリスで、蒸気機関車が出発する時、機関士が機関車に話しかけたという言葉

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全員の力を結集する現場

24-3-330-9まだ赴任して数ヶ月ですが、このSL組はとてもバランスのとれたチームだと思います。みんな、壁にぶちあたると、頭を寄せ合って相談したり、古い図面を見たり、議論しながらベストな状態を探しています。私が入社した当時、大宮工場は3000人という大所帯でした。一つの職場の長が持つ部下は100人ほど。技術研修は、「失敗しながらものを覚えていく」ということが当たり前。でも、今の時代は違います。社員の数も少なくなり、昔のやり方ではできません。自分たちがやりたい仕事、興味をもっている仕事に貪欲に立ち向かい、先輩に聞いて吸収し、教えてもらいながら育っていくのです。1両あたりの部品点数は、数千点もあります。それをバラして、整備して、組み立てて、走らせる。それを12人でやっているわけですから。そう考えてみると、一人一人の力を結集しなければ、達成できない現場なんだと思います。

SL組 山口憲三さん

 

~126年の鉄路 伝統を受け継ぐ12人のSL組~

東日本旅客鉄道株式会社 大宮総合車両センター

 

取材ご協力

大宮総合車両センター SL組
山口憲三様
中島賢樹様
渡邊功様
我妻翼様

取材

東海バネ工業 ばね探訪編集部(文/EP 松井  写真/EP 小川)