第2話
【世界初ゴムクローラーを生み出した会社】株式会社諸岡様
ゴムクローラーを生み出した諸岡の機械の強みとは何かーー。それは、どこまで人間に近づいた機械をつくっているか、ということにつきる。「人間の解剖図と、うちの機械の解剖図は、照らし合わせてみるとだいたい同じ」と、諸岡社長は語るが、まさに、諸岡の機械は人間の代替品である。
<技術>機械が人間を凌駕する?!
固定概念を打ち破った原点
ゴムクローラーを生み出した諸岡の機械の強みとは何かーー。
それは、どこまで人間に近づいた機械をつくっているか、
ということにつきる。
「人間の解剖図と、うちの機械の解剖図は、
照らし合わせてみるとだいたい同じ」
と、諸岡社長は語るが、まさに、諸岡の機械は人間の代替品である。
「諸岡の機械は、人間でいうとどういう役割をするのか。
例えば油圧で動くポンプは、人間でいうと心臓です。
血液が末端まで行って戻ってくるように、油圧という圧力がある。
血圧が高すぎても駄目、低すぎてもだめ。全く人間と同じなんです。
オイルクリーナーは、人間にたとえると腎臓にあたる。
人間でいう血液をきれいにする、腎臓の部分というのは油をきれいにする役割なんです」
人類が限りなく人間に近いものを造りたいと願うのは当然のことかも知れない。
その最たるものはロボットだろう。
あくまで人間をサポートしながら、人間のできない領域を軽々とこなしていく存在。
ある種、あこがれであり、目標なのだ。
「うちの機械のエネルギー源というのは、エンジン。
その回転が油圧ポンプを動かす訳です。
ここから送り出される高圧の油が、
油圧モーターに回ることによって油の圧力を回転する力に変え、
人間が歩くと同じように、機械が進んでいきます。
ですから、エンジンは油圧をつくるためのもので、エンジンが直接駆動力を作っている訳ではないのです。
油圧ポンプは心臓と一緒。
では、エンジンが何かって言うと、その栄養によって心臓を動かしている胃袋のようなものです。
おおもとの動力源なのです。
また、血液は動脈と静脈があります。
動脈で行って静脈で返ってきますが、うちの機械もまったく同じで、
ポンプから油圧モーターへ行くのが動脈。
動脈とは高圧。高い圧力で送り出されて末端まで行き渡った油は、
静脈・低圧で戻ってくる。静脈は圧力が低い。
それを何度もグルグルと繰り返しているのです」
諸岡がクローラーは鉄、という固定概念を打ち破り、
ゴムに置き換えたのは、
まさに、人間の機能に近づけたかったからではないだろうか。
鉄という硬質なものではなく、ゴムという強靱なしなやかさを持ったクローラーこそ、
人間と機械をオーバーラップさせる接点なのだ。
そう考えてみると、
機械が身につけることのできない技術とは何か?
それは言うまでもなく、人間の心。
その心の部分は、諸岡の現場で汗水流して機械を作り込む職人さんたちである。
その職人さんたちの技と心が、諸岡の機械に魂を吹き込んでいるのだろう。
世の中に無いものを生み出す苦労
そんなゴムクローラーは、今でこそ色々なメーカーが造るようになったが、
30年前は、諸岡にしかなかった。
当時、展示会に出展すると、ブースに立ち寄った10人中8人は、ゴムを手でさわったり、足で蹴ってみたり。
「こんなゴムで戦車や重機を走らせたら、切れちゃうだろう」
誰もがそう、思ったのである。
「ゴムの材質には自信を持っていたのですが、
やはり、鉄に比べると寿命は短い。
実際、当初は半年で切れてたこともありました。
強度が足りなくてね。
恵まれていたのは、同じ竜ヶ崎市内にTCM(東洋運搬機製造株式会社)、
土浦に日立建機などがあった関係で、中小の工場が多く存在していたこと。
そうした会社の協力を得ることができました」
試行錯誤のなか、なんとか強度を高めることに成功、
「ゴムは、意外に丈夫なんだ」という概念が、徐々に広まっていった。
現在の耐用時間は、2000時間から3000時間。約2、3年である。
このゴムクローラーの寿命基準は、当然、諸岡が指標となっている。
用途が広がる諸岡の機械
諸岡の機械は土木現場だけではなく、様々な現場で使われている。
木の切り出し、間伐材を切る。
また、今はあまりないが、昔はスキー場のゲレンデなどでも使われていた。
「私も何回も死ぬ思いしましたよ。テスト車両でゲレンデを上がっていくわけです。
傾斜角度を考え、どこまで登坂できるかを実験するわけです。
さすがにクローラーを備えた車両でも、滑ったりするんです。
いくらゴムだからと言っても、 摩擦抵抗の低いアイスバーンなどでは滑るわけです。
そこでかなり危険を感じながらのテストを行ったものです。
どちらかというと、私どもの機械は山岳地帯に適しています。
接地面圧が低いゴムクローラー車両ですし、小回りも利きますからね。
そういうところでちゃんと動くのかっていうのは現地で確認します。それが開発には一番の最短距離なんです」
最近は、顧客が使い方を考えだしてくれるという。
というのは、諸岡の機械は、ある意味ベーシックなトラックなのである。
ただ単に土砂を積んでダンプするだけではなく、
後ろにミキサーをつければ、ミキサー車にも変身するというわけだ。
諸岡のベース車両に、必要に応じた様々な装備を組み込むことによって、適材適所な車両ができあがるのである。
「防衛省でもうちの機械を使ってますし、
カンボジアの選挙で投票箱を運んでいたのも当社の機械です。
地雷踏んでも大丈夫かな?とか心配もありますが、
意外にゴムというのは、爆破の力に対しても強いようなんです。
そういうこともあって、戦地の危険なジャングルのようなところでも走っているんです」
このように、世界的にゴムのクローラーは認知されているが、
諸岡のような運搬車という用途で使っているのは日本だけだという。
「海外のメーカーは少し違う。
パワーショベルには使っていますが、運搬車には使っていない。
何故なのかな?
国土の広さも関係してくるのかも知れませんが、
海外勢は、速度の出せるタイヤが好きなようですね。
ゴムクローラーが自国の技術ではなく、日本で生まれたということも関係しているのかな?」
・・・第3話に続く
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