第3話
【ツバキエマソン誕生】株式会社ツバキエマソン様
1本のボールネジでもつくれるようにしたい・・これが、兵庫工場の目指す生産体制だった。1台毎製作していくことを基本とし、顧客がほしいモノを、ほしい時に提供する。その思いは、工場の生産概念を変え、現場の意識をかえた。
脱・蛸壺の体制から得た気づき
大事なのは余力
1本のボールネジでもつくれるようにしたい・・これが、兵庫工場の目指す生産体制だった。
1台毎製作していくことを基本とし、顧客がほしいモノを、ほしい時に提供する。
その思いは、工場の生産概念を変え、現場の意識をかえた。
「ものづくり大国」と呼ばれる日本の底力を追求していくと、やはり、製造業に関わる人間たちの「熱い思い」に行き着く。製造業の経営トップといえば、決まって技術上がりの人たちが多いが、ものづくりにかける情熱が無ければ、こうした会社の成長は見られないだろう。
第2話で触れた工場の大改革で、ツバキエマソンは「見える化」に成功し、多くの気づきがあっただろう。
その改革の背景には大きな課題が二つあった。
1点目はラインの平準化だ。どんどん入ってくる注文をラインにのせるわけだが、有るときは、山のようになり、無いときは何もない。これを平準化、なおかつ、短納期実現は、そう簡単にはいかない。
2点目は、100点以上ある部品点数の多さだ。1点でもかけると組立てはできない。そして作り方は千差万別。この部品をあわせるのは、至難の技である。
「部品点数が少なければ、コントロールしやすいんですが、100点以上ある部品をきちっと納期をあわせるのは大変です。しかも、受注生産ですから、どんなものがくるのか予測できない。生産がピークになっても納期をあわせるのには、リードタイムをいかに減らすすかでした」
こうした問題解決の答えは簡単だった。『余力』である。
「普通の会社は余力をつくるな、100%働け、と言われますよね。違うんです。いかに、2割をとっておくかです。機械を止めて、いらないものはつくらない。今のリソースで、必要なものだけをつくっていけば、短納期達成につながる。簡単な話ですが、言うは易く行うは難しです。
たとえば、人間100の力をもって、100活かすのが当然やと思ってます。60で仕事して、40遊んだら怒られますわ。でも、40で付加変動に対応したら、お客さんから評価されるんです。必要なときに、必要なものが入ってくる。こういう発想になかなか切り替わらないんですわ」
余力がないと、計画的なものはつくれない。
暇な機械は止めて、停滞しているところを応援する。本当に重要なボトルネック設備を、重点化していく。忙しい機械は、逆に24時間フル稼働、暇な機械は遊ばせる。これが、兵庫工場の姿である。
工場は極めてシンプル。多くの部分を外注している。外で加工できるものは外で。心臓部品だけは内作でやる。だから、加工の設備も台数も少ない。そのかわり、1台1台、凝っている。
「よく、加工の博物館やな、展示場やなぁと言われます」(福井取締役)
技術者の見える化にも苦労した。ここはブラックボックスである。何を考えているのか見えずらい。第2話でも触れたが、ともすれば、蛸壺が好きで、自分の世界をつくってしまう傾向がある。だからこそ、技術者が何を考えているのかは、見える必要があった。ここも、余力が重要だった。
「見える化なんて言いますけど、わからんですよ。暇なんか、忙しいのか。特に技術はね。それをわかるようにする、そこからが改善なんですね。」
技術部隊というのは、何をする部隊なのかといえば、将来の夢を語ってもらわんといかんところなんです。それには、想像力です。想像力は何から生まれるのかといえば、余力です。その余力をどういかすか。想像力を持たせればもっと、広がります。
「良く言われますが、『技術者を遊ばせる』という意味がようやくよくわかりますわ」
技術部隊というのは、いかに明日の夢につなげていくか。決して、作業ではない。
外注との付き合いも見える化
前述した問題点の2点目に、100点以上の部品を揃えることに難しさがあると記述したが、納期までに、ピシッと揃うかどうかの鍵を握るのは、外注業者との連携だった。
そこで、調達にどんな問題があるのかと、責任者10名近くで一件、一件、外注さんを回ってみたところ、 工場と同じで状況だったことに気がついた。
つまり、先の納期まで含めて、余計な発注をしていたのである。当然ながら、外注業者は、次々くる注文のなかで、作りやすいものから着手していた。
「納期問題の8割から9割は我々にあったことがわかったのは重要でした。外注負荷を考えてお願いしていなかったんですね。 一歩引いて考えてみると、多くのことが見えてきます。当たり前のことが、当たり前にできていない状態で、会社が伸びるわけないんですね」
問題解決の大部分の答えは、自分たちがもっていると取締役は語る。
今後の狙いは営業部隊だ。ここをどう変えるかで、さらに変わってくるという。
「工場以外となってくると、私の陣頭指揮だけでコントロールできませんから、これは大変ですが、それができたら、お客さまのほしいものを、ほしいときにお届けできる。真のソリューション提供ができます」
この生産の落ち込んでいるこの時期はチャンス、生産をブラッシュアップする、絶好の機会でもあるという。
皆、変わることを嫌う。そこに火をつけて「変わるんだ」、というのは抵抗がある。
でも、変わりだしたら、惰性がついて早い。
熟練を変えるのが一番難しいが、そこを変えることがまず重要である。
「技術は人に宿る」とよく言うが、技術を動かすのは人であり、成功を握るのも人。
ESなくして、CSはありえない――を証明してくれた。
「工場全体が、壮大な実験をやっているようなものです。毎日が実験です。
現場の人たちに楽しんでほしいと思っています」(福井取締役)
この実験工場には、今後の日本の製造業を変えるヒントが、詰まっているのかも知れない。
完
-魅力ある人の創造 魅力ある商品の創造 魅力ある工場の創造-
株式会社ツバキエマソン
http://www.tsubakimoto.jp/tem/company/
所在地: 〒679-0181 兵庫県加西市朝妻町1140
TEL:(0790)47-2525 / FAX:(0790)47-2529
取材協力 兵庫工場工場長取締役 福井豊明 様
作動機BU技術 部長 小林 豊 様
調達部 課長 山口 登実男 様